OH!JAPANESE オドロク尾戸録 金子農園
声に出して言われてもワカラナイ日本語
その3
〔やれ〕
 親しくしている家(どことは言えない)に呼ばれて飲むことが多いが、最初、びっくりしたのは、その家のおばさんの言葉遣いだ。
 「さあ、飲んでください」とか、「どうぞ、ご飯を召し上がって」と言ってくれれば、「はい、いただきます」と手を出すのだが、そこのおばさんは、そんなやさしいことは言ってくれない。では、どんなふうに言うか。
 酒のときは、「飲め!」、ご飯のときは、「食え!」だ。
 これは、はっきり言って驚いた。なにも東京育ちだからと気取ってるわけじゃないけれど、いきなり、「飲め!」ではなあ。
 ま、分かりやすいと言えば分かりやすいので、いまではすっかり慣れてしまって、変に、「いかがどすか、おひとつ」などと言われるよりもさっぱりしてていいけどね。

 そのおばさん、自分のことを、「おれ」というから、これもびっくりした。一応、女だからね、そのおばさん。いや、もしかしたらもう、女を卒業しちゃってるかもしれないけどさ。でも、気をつけて聞いていたら、そのおばさんに限らず、この辺では「おれ」と言うおばさんはほかにも大勢いるから、これは当たり前のことらしい。
 
 「飲め」も、「食え」も、「おれ」も分かるから、まだいい。でも、「やれ」というのはなんとかならないかと思う。これは東京もんには分からない。
 以下は、妻の話。
 わたしも最初びっくりした。稲を脱穀したあと、ワラをたばねるでしょう。初めての時あれができなくてもたもたしてたら、Sさんが、「そいば、やれ!」って言うの。えっ、と思ったけど、よく分からないから、後ろにいた数栄さんのほうへ放ったの。そしたら、Sさん、変な顔して、「違う、そいば、やれ!」と言って、手を出すの。「それを、こっちへよこせ」っていうことだったのね。
 
 そう、「やれ」=「くれ」、「くれろ」なのだ。
 やれ、と言われれば、だれか第三者にあげろ(渡せ)と言われてると思いますよ、アタシも。まさか、こっちへよこせと言われてるとは思わない。

 ところが、これは長崎だけでなく、鹿児島でも同じように言うと、鹿児島出身のカミヨシさんが教えてくれた。
 やれ、やれ…。疲れるぞ。   

バアサマの言い伝え(暮らしの知恵・格言集)
ジャガイモは彼岸の10日前までにつくれ
 「つくれ」というのは、「植えろ」という意味。
 その頃に植えれば、ちょうど梅雨の前に大きくなって土が乾いた状態のときに収穫できる。梅雨に入ってしまえば土が濡れた状態になるので掘れない日が続き、腐ってしまう。
 「ジャガイモはもう、つくったね?」「いや、まだできないっすよ」
 「早う、つくらんば」「!…?」