14 年寄りの元気さには負ける

Q131:そちらは、やっぱり、お年寄りが多いんですか。 A131:多いなんてもんじゃないよ、年寄りばっかよ。おれなんか若手だから。期待される若手。希望の星。あんたね、笑うけど、ほんとだよ。この地区は45戸あるけど、農業をしてるのでおれより若い人って言えば、一人しかいないんだよ。あとぜんぶ年寄り。


Q132:じゃあ、典型的な高齢化社会ですか。 A132:高齢化じゃないよ、高齢社会。だってね、この地区で最大の行事って言えば、敬老の日の敬老会だからね。


Q133:やっぱり、おじいさんより、おばあさんのほうが多いんですか。 A133:そうだね。だいたいどこでもそうでしょう。敬老会でなにか余興をやるのだって婦人会だからね。民謡とか、踊りとか。寸劇もやる。あれ、そうだ、婦人会って言えば、ことしからなくなっちゃったんだ。解散してね。だってさ、婦人会って言ったって、「婦人」なんていないんだぜ。いや、こんなこと言っちゃいけないんだけど、婦人なんかとっくの昔に卒業した「ばあさん」ばっかだもん。  


Q134:だめだめ、だめですよ、そんなこと言っちゃ。 A134:でもさ、年寄りって、なんであんなに元気なんだろうね。こっちでもゲートボールがはやってるんだけどさ、夏の炎天下だって、朝から晩までやってるんだぜ。おれなんか、夏の日中は外に出ないよ。長崎の夏は、そりゃあ暑いからね。年とると感覚が麻痺しちゃうのかな。


Q135:違う、違う。昔の人は鍛えてるから強いんです。 A135:そうかなあ。体だけじゃなく、口も達者だからね。この間だって、「お前さん、いくつになるね」って聞くから、「59です」と答えたら、「なんだ、まだ小僧ね」だって。小僧はねえだろうってえの。でね、私にもちょっとゲートボールやらせてくださいよって言って、スティックを借りてポコンと打ったら、たまたまゲートに入ったのよ。そしたら「ほほー、うまかねえ」だって。「うまかねえ」というのは「うまくない」じゃなくて「うまいね」って意味よ。
 翌日、うちの母ちゃんがゲートボール場の前を通ったら「お前の父ちゃん、筋がいいからゲートボール会に入れって言うとけ」って言われたって。やらないっ、つーの。


Q136:誘ってくれたんだから、喜ばなきゃあ。 A136:だいたいね、おれ、おばあさんに人気あんのよ。両手に杖ついてうちまで遊びに来るおばあさんもいるし、この間なんか、乳母車を押したおばあさんがいたから、軽トラの荷台に乳母車を乗せ、おばあさんを助手席に乗せて、家まで送ってあげたのよ。隣の地区の人だけど。そしたら、うちの母ちゃんがデイサービスでその地区へ行ったとき、「あんたの父ちゃんは優しかねえ。気持ちも優しいし、目も優しい。おら、惚れたばい」って、みんなの前で言われて、みんなから「気をつけんと、盗られるばい」と大笑いされたって。


Q137:もてもてじゃないですか。 A137:そのばあさん、あと50ぐらい若けりゃね。おれもフラフラッとくるかも知れないけど。 


Q138:みんな元気なんですね。 A138:80歳過ぎて、漁をしてる夫婦もいるよ。刺し網を入れて、上げるの大変だよ。でも、腰が曲がってるから、ちょうどいいの。
 漁師も年寄りばっかりでね。ナマコ漁なんか、箱めがねを口でくわえてのぞいて捕るんだけど、年寄りは歯が弱いからさ、入れ歯なんか入れてさ、箱めがねをくわえられないんだよね。だから手で持ってやるのよ。視力だって弱っていると思うんだけど、おれより捕るからね。かなわないって。


Q139:まだまだ若いもんには負けんと。 A139:負けないね。隣の地区に103歳のおばあさんがいたのよ。去年亡くなっちゃったんだけどさ。そのおばあさん、近くの雑貨屋に地下足袋を買いに来てたんだよ。亡くなるちょっと前まで。畑仕事するからって言って。店のおばさんが気を利かせて「ばあちゃん、ごめんね。地下足袋切らしとるんよ。こんど入れておくけんね」って言って帰すんだけど、また翌日来る。これが毎日。


Q140:それって、ボケてるんじゃないんですか。 A140:そうだけどさ、でも、すごいじゃない。103歳で畑だぜ。
 そのおばあさん、「おれもそろそろ結婚しないと、行き遅れるけん。誰かもろうてくれる人はおらんじゃろうか」って言うんだって。ひ孫もいるんだぜ。