18 朝日の当たる家

Q171:自然の環境はどうですか。海が近いんですよね。 A171:長崎県の真ん中に大村湾があって、琴海町はその大村湾の西岸に沿って南北に細長く伸びている。北に佐世保市、南が長崎市。西彼杵半島の一角で、西側は山。だから、海と山に囲まれた、自然が豊かな田園地帯ということになるよね。
 うちは、大村湾に突き出た尾戸半島の中央部にある。標高60メートル。海を見下ろす高台にあるので、大村湾が一望。真正面に長崎空港が見える。対岸が大村市。真東が海なので、朝日も月も真正面から上がってくる。夜は対岸の町の灯りがきれい。人家は1軒しか見えず、あとは山と畑だけ。


Q172:朝日の当たる家、ですね。 A172:そう、朝飯を食べながら、パンパンと朝日を拝むなんてこともよくある。毎晩、囲炉裏端で月を見ながら晩酌。満月の晩なんか最高だよ。月明かりで海が光ってね。


Q173:じゃ、星もきれいでしょ。 A173:まわりに明かりが何もないから、晴れてれば満天の星。都会の友だちが遊びに来ると、みんな歓声を上げる。「わー、まるでプラネタリウムみたい」って。露天風呂に入ると、もっと大騒ぎになる。流れ星が見えるから。
 でも、曇っていて月が出てなかったら、真っ暗だからね。本当に真っ暗。漆黒の闇。懐中電灯がなかったら一歩も歩けない。こっちへ来て真っ先に買ったのが懐中電灯だもん。


Q174:まわりが山ばかりで、寂しくないですか。 A174:よくそう聞かれるけど、寂しいと思ったことは一度もないね。山も檜や杉じゃなくて、広葉樹ばかりだから、四季折々に色が変わってきれいだし、見ていて飽きないもんね。
 ただ、隣の地区に大阪から来た女の人がいるんだけど、その人は「近くに喫茶店が一軒もないので、大阪に帰りたくなった」って言ってたね。「夜も真っ暗で、静かすぎて、最初の頃は泣いたこともある」って。おれはそんなこと一回もないけど。


Q175:川はあるんですか。 A175:町にはいくつも川があって、夏はホタル祭りなんかやってるけど、うちの近くには大きな川はない。小川があって、ホタルも見ることはできるけど、川遊びなんかはできない。それがちょっと寂しいかな。


Q176:海は磯ですか、砂浜ですか。 A176:両方が入り組んだリアス式だから、磯遊びも海水浴もできる。うちの下は、誰も来ないから、プライベートビーチ。


Q177:野生動物は。イノシシとかはいるんですか。 A177:西側の山のほうにはイノシシが沢山いて、毎年、農作物の被害が出ているみたいだけど、尾戸半島にはいない。こっちはタヌキの被害が多いね。スイカがやられる。歩いているのも見かけるけど、車にはねられて死んでいるタヌキはしょっちゅう見る。タヌキは動作が鈍そうだけど、結構足は速くてね、この間、畑で見つけて追っかけ回したけど、逃げられた。
 イタチにニワトリを全滅させられたこともある。


Q178:ヘビとかは。 A178:ヘビの好きな人は喜ぶね。いっぱいいるから。稲刈りの頃なんか、田んぼへ行けば、マムシにいくらでも会える。一回、ニワトリが変な声で鳴いてるから飛んでいったら、でっかい青大将がぐるぐるに巻きついてんの。引きはがして鉈でまっぷたつにしてやったけど、すごいね、半分残して逃げて行ったもんね。
 ムカデもいるよ。きちんと締めているのにどっかから入ってきて、寝ている顔の上をお通りになることがある。地下足袋や軍手のなかにもぐり込んでいることもある。おれは用心深いからまだやられてないけど、母ちゃんなんか2度、刺された。それは痛いらしいよ。
 あ、おれは、オオスズメバチにやられた。左の背中を4カ所刺されて、これは痛かった。炭焼きの木を切りに行って、大きな樫の木をチェーンソーで切り倒したら、その根っこに巣があったんだね。バーッと群れが出て来てね。チェーンソーを放り投げて山を転がり降りたけど、バチン、バチンと4回衝撃があって。左腕が倍くらいに腫れ上がった。朝やられたんだけど我慢してて、とうとう我慢しきれずに夕方病院へ行ったら「死ぬ人もいるんですよ」と脅かされた。


Q179:怖いなあ。 A179:いや、カブトムシとかクワガタなんかもいるから、子供は喜ぶよ。オニヤンマとかも飛んでるからね。もう、町の中じゃ、見れないんじゃないの。


Q180:小鳥はどうですか。 A180:庭に実のなる木をいろいろ植えてあるから、毎日がバードウォッチング。それと、鶴の渡りが見られるんだ。ちょうどうちの真上がルートになっていてね。鹿児島の出水市へ行くやつとシベリアへ帰るやつと。これは壮観だよ。