21 遠くへ行きたい

Q201:テレビの『人生の楽園』と、『遠くへ行きたい』で、金子農園がまた紹介されていましたが、反響はどうだったですか。 A201:いや、すごかったね。とくに『人生の楽園』で、うちのホームページが紹介されたでしょう。3日間で、メールが108通も来た。108通だよ。それこそ、北海道から沖縄まで。みんな「テレビを見た」と言って。
 訪問者も多い。茨城とか大阪、福岡、大分、熊本。毎日、誰か来る。日曜日なんか、仕事にならない。大分から来た人なんか、町名もおれの名前も分からないで来たって。それでたどり着いたって喜んでたけど、よく来るよね。
 メールのうちの1割は、それまで音信不通だった古い友人から。それこそ小学校時代の友だちとか。それからあとの1割が見知らぬ人からの応援メール。「素敵な生き方、これからも頑張ってください」とかね。そして、あとの8割が相談メール。田舎暮らしに関しての相談と、人生相談。これが、大変だった。だって、相談だから、答えなきゃわるいじゃない。


Q202:内容は。 A202:まあ、いろいろだけど。


Q203:だって、このQ&Aは、そういう人たちのためのコンテンツなんでしょう。 A203:うん、そうなんだけど、みなさんそれぞれ個人的な事情のなかで、もっと詳しく知りたいことがあるみたいなんだよね。だから、一応、質問に応じた返答を書いたよ。毎晩、夜中まで。いまは、落ち着いたけど、一時はどうなるかと。


Q204:田舎暮らしへの夢は持っていても、いざ実行に移すとなると、分からないことだらけですもんね。不安というか。 A204:そうなんだよね。ここでは、田舎暮らしを始める前に、これだけは知っておいた方がいいですよという意味合いで、とりあえず、都会と田舎の違いみたいなことから紹介してきたんだけど、それよりもまず、どうして今の場所を見つけたとか、どんな準備をしたとか、きっかけとか、そういうことを知りたいみたいなのよ。


Q205:より現実的にね。 A205:おれも、その辺のことは、あちこちでしゃべったり、書いたりしてるから、もういいと思っていたんだけど、まあ、見てない人もいるわけで。


Q206:じゃあ、改めて、田舎暮らしを始めようとしたきっかけから、話していただきましょうか。 A206:田舎で暮らしたいという思いというか、下地は、若いときからあったんだ。高校のときから山登りにはまって、いつかは信州の山の近くか、あるいは山小屋の親父になるかと。
 その後、40代でトライアスロンを始めて、各地のレースに出場しているうちに、やっぱり自然の豊かな土地に住みたいという思いが強くなって。そんな折り、会社でいわゆるリストラにあって、「ちょうどいい機会だ」と思い、田舎暮らしを決断したというわけ。
 ま、その背景には、マンション暮らしの窮屈さとか、空気の汚さとか、添加物だらけの食材への不安とか、都会を脱出したいと思わせるいくつかの要因があったわけだけど、たまたま同じ時期に、高2の娘が就職すると言いだしたので、「それじゃあ一年後に決行」となった。二人の息子はすでに社会人。夫婦ふたりなら、都会に居座る理由はなにもない。どうせなら第二の人生、自分たちがいちばん住みたい場所に住もう、と決めたわけよ。


Q207:奥さんとか、子供さんとかの反対は、なかったんですか。 A207:ぜんぜん。うちの母ちゃんはもともと庭いじりが好きで、田舎暮らしに憧れてたからね、渡りに船。「どこか田舎へ行こう」と言ったら、「やったあ」って喜んでた。子供たちも「いいんじゃない」って賛成してくれた。いまでは、田舎ができたって喜んでる。


Q208:金子さんは、東京生まれでしたよね。それがまた、なんで長崎へ。 A208:うん、まずね、「暖かいところ」っていうのが頭にあった。だから、東北や北海道はまず除外。それと、近くは嫌だった。千葉の房総とか静岡の伊豆とかも暖かいけど、どうせ新しい人生を始めるんなら、どこか、遠くへ行きたかった。それで九州。年取ったら寒いところは体にきついだろうと思ったのと、暖かいところなら暖房費も衣料代もかからないと計算した。
 九州でも、宮崎と鹿児島は台風のメッカだから避けた。福岡も都会ということで除外。で、長崎と熊本、大分の3県に絞って、候補地探しを始めた。


Q209:それは、どうやって。 A209:都内にある全国都道府県会館と、全国新規就農ガイドセンターというところへ出向いて、いろいろアドバイスを受けた。各市町村にアンケート調査してまとめた資料から、県外からの転入者の受け入れに積極的な姿勢を見せる市町村と、そうでないところを教えてもらって、その資料をもとにして、これはと思う町村役場に電話を入れ、担当者に話を聞いた。
 親切なところは、資料を送ってくれたり、手紙をくれたりしたね。そういう中から候補地をいくつか選び出して、休みを利用して実際に訪ねて歩いた。ゴールデンウイークに車を借りて、役場を訪ね、見て歩いた。その旅の途中、今の場所をたまたま発見したってわけ。


Q210:何が決め手になったんですか。 A210:おれたちの場合、場所選びのキーポイントは、@よそからの転入者に対して排他的でないところ(嫌な思いをしないために)、A自然が豊かで景色のいいところ(そこで百姓をする)B海の近く(そこで漁をする)、と決めていた。これだけははずせないと。
 それが、ぴったりはまったんだよね。「ここだ!」って叫んだからね。まさに、幸運だった。