26 土地はいくらでもあるけれど

Q251:こちらの土地は、どのようにして購入されたんですか。売りに出されていたんですか。それとも不動産屋さんを通して。 A251:不動産屋なんてないし、売りに出されていたのでもない。たまたま気に入った土地を見つけたので、そこの地主を紹介してもらって、地主と直接交渉。と言っても、あいだに人に入ってもらったけどね。仲介人は、役場の人に紹介してもらった。


Q252:値段はどうやって。 A252:その仲介人は、このあたりの事情に詳しい人なので、だいたいどのくらいなのかを聞いて、こっちの希望も伝えて、地主に当たってもらった。で、これこれで買ってもらえないかと地主が言っているというので、分かりましたと。


Q253:これこれというのは、どのくらいなんですか。もし、さしつかえなかったら。 A253:坪1万円。


Q254:1万円! A254:そう。前にも言ったけど、おれ、言葉が分からないから、最初、何を言ってるのかなと思って、「あの、土地の値段なんですけど…」と聞き返したもんね。そしたら、本当に1万円。もう、迷うも何もない。「ハイ、それでお願いします」って、二つ返事。
 ところが、あとで住んでから聞いたんだけど、「ずいぶん高く買わされたね」って、何人もから言われた。せいぜい5000円くらいじゃろうって。よそ者だから足もとを見られたって言うんだけど、こっちにしてみれば、そんなこと分からないし、都会人の感覚からすれば、「こんなに安くていいの」って感じだったからね。
 それと、これもあとで分かったんだけど、田舎の人は、何に対しても、そういうことを言うんだよね。「おれの土地なら、いくらで分けてやったのに」とかね。


Q255:どこでも、そんなに安いんですか。 A255:どこでも安いかどうか知らないけど、まあ、都会から比べればまるで馬鹿みたいな値段だよね。ただ、これはあくまでも8年前の話しだからね。いまでも不動産屋はないし、売買も頻繁にないから相場らしい相場もない。
 ただ、言えるのは、地目が山ならかなり安く買えるし、買うのも簡単。でも、田んぼや畑は、農地法で守られているので、買うのも難しい条件があるし、面積にも限りがある。値段も山と比べればずっと高いよね。あと、道路からの距離とか、景観の善し悪しとか、耕作している畑と荒れた畑とか、さまざまな状況によっても当然、変わってくるよね。


Q256:買える土地は、まだ沢山あるんですか。 A256:買えるかどうかは分からないけど、土地はいくらでもあるよ。山はいっぱいあるし、農業の置かれた環境や、高齢化とかで、農業をやめる人もこれから増えていくだろうし、畑だって、あと数年のうちには、あっちでもこっちでも荒れ地になるのが目に見えてる。どこも後継者がいないんだから。
 ただ、土地はいくらあると言っても、田舎の人は土地をなかなか売りたがらないよね。先祖代々続いてきた土地を、自分の代で売るというのは恥、という考えが強いから。
 だから、よほどお金に困ってるとか、急に物いりになったとかでないと、なかなか売ってくれないだろうね。 


Q257:借りるのは、どうなんでしょう。 A257:借りるのは簡単。言えばすぐ、貸してくれる。いや、言わなくても、使ってくれないかと、向こうからやってくる。何故かというと、田舎の人は、自分の土地を荒らすのをすごく嫌がるんだよ。狭い地域だから、あの土地は誰それの土地であるとみんな知っているわけでしょ。荒らしておけば、「あいつは土地を荒してしまって」とやられるわけ。だから、畑にしなくても、草払いだけはして一応、きれいにはしておくもんね、みんな。それを借りて畑にしてくれれば、きれいにしてくれているということで、喜んでくれるわけよ。


Q258:金子さんも、借りてるんですか。 A258:自分でも畑を450坪ほど持っているけど、その他に、畑と田んぼとミカン園を借りてる。これで手一杯なんだけど、まだ、借りてくれないかと、あっちからもこっちからも来るので、断るのに苦労しているんだよね。


Q259:借り賃は、どのくらいなんですか。 A259:借り賃なんてない。みんな無料。ただ、田んぼだけは一応、昔から1反(300坪)につき米1俵と言われているので、うちも米を収穫したら1俵、お礼に持って行く。畑やミカン園もただだけど、気持ちということがあるからね、暮れには一応、きちんとそれなりの挨拶はするよ。お歳暮を持ってね。
 それよりか、多分驚くと思うけど、田んぼや畑を借りて耕作すると、町からお金がもらえるんだよね。借りた側がだよ。だから、こんな言い方をしちゃあ本当はいけないんだけど、うちなんか、お金をもらって借りてるわけ。
 ほかにも、農地についてはいろいろな形で保護政策があってね、普通の宅地とは区別されているのよ。


Q260:へー、知らなかった。そうなんですか。あと、ついでに聞きますが、貸家はありますかね。あるとしたら、家賃は。 A260:空き家もないことはないけど、「空き家アリマス」みたいな看板は見たことないね。借りたいという人が現れて、たまたま貸してもいいという人がいれば借りられる、という形だね。実際、借りて住んでいる家族も何軒か知っているし、空き家になったままの家もある。おれの仲のいい友人は、家賃が月3万円って言ってた。
 うちも、家を建てるまでの間、近所の空き家を借りて5ヶ月近く住んでいたけど、その家なんか、まだ新しい6LDKの2階建てで、それが月1万円だったからね。
 最近は、町によっては、よそからの転入者に家を無償で与えたり、土地を提供したりするところもあると聞くからね。そういうところは狙い目だよね。琴海町はまだ、それはないけど。