28 甘かろう、うまかろう

Q271:食ということで、都会と田舎というか、東京と長崎での違いというのは、何かありますか。 A271:長崎全体のことは分からないけど、この辺のことで言えば、まず、何でも味つけが甘いということだね。とにかく甘い。煮物でも、寿司でも、うどんでも、みんな甘くしちゃう。


Q272:どうして、甘い物が好きなんでしょうね。 A272:本当かどうか定かじゃないけど、聞いたところによると、昔、甘い物がなかったらしいんだね。手に入らないというか。まあ、値段が高いということもあってね。それで、とにかく、甘い物がごちそう。甘い物がもてなしということで、いまに残ったと。
 だから、「甘かろう、うまかろう」という言葉があって、お客さんにはとにかく甘い物を出す。甘みをおさえた料理を出すと、「あのうちはケチしてる」と、陰口たたかれるって言うほどだからね。
 それにね、毎年、敬老の日に公民館で敬老会のお祝いをやるんだけど、その時のお土産が砂糖だからね。みんなに砂糖を1袋ずつ渡すの。


Q273:甘いのが好きな人はいいでしょうけど。 A273:そうだよ。おれなんか、甘いのはダメなほうだからさ、弱っちゃうんだよね。よその家で出された物が食べられないし、寄り合いのあとは必ず宴会になって「ごちそう」が出るんだけど、これが食えない。ヅラーッといろんな料理が並んでいるのに、ひとつも食べられるものがないんだから。もう、悲惨。ただ、焼酎を飲むだけ。


Q274:お刺身なんかも出るでしょう。 A274:それそれ。その刺身がまたダメなのよ。いや、刺身そのものは新鮮でいいんだけど、醤油がね。醤油がまた、甘いの。最初、食べたときなんか、「ウッ」って吐き出したからね。「なに、これ!」って。
 それを地元の人に言ったら、その人もこう言ったよ。「おれも東京へ行ったとき、刺身定食を食ったら、醤油が辛くて食えなかった」って。


Q275:そう言えば、九州の醤油は甘いと聞いたことがあります。 A275:だからね、醤油だけは、東京の友だちに頼んで送ってもらってたもん。どう頑張っても、これだけは譲れないっていうか、合わないからね。ま、いまは母ちゃんが醤油を自分でつくってるからいいけどね。よその家に呼ばれたときなんか、醤油持参で行くよ。ほら、プラスチックの小さい入れ物があるじゃない。あれに入れて。
 キッコーマンとかヤマサとかも売ってるんだけど、こっちの人の口に合わせて、九州味になってるんだよね。  


Q276:醤油もつくってるんですか。 A276:うん、味噌も自家製だよ。味噌も違うもんね。東京は米味噌だけど、こっちは麦味噌だから。東京は1年くらい寝かせてから食べるけど、こっちは1ヶ月くらいで食べちゃう。


Q277:東京で食べられるけど、そっちで食べられないものってありますか。 A277:おれの好きなもので言えば、マグロと、ラーメンと、蕎麦だね。これが、こっちでは食えない。だから、たまに東京へ行ったときは、まず、何をさしおいても、マグロのにぎりと、東京風の醤油ラーメンと、もり蕎麦を食べる。


Q278:それは無いんですか、それとも味が違うんですか。 A278:うん、マグロは食べる習慣がないんだよね。正月なんかでも、魚と言えば、ブリだから。誰も食べないから、仮にあったとしても、いいマグロはないもんね。そう言えば、鮭もないな。新巻鮭なんて売ってない。
 ラーメンは、あるけど豚骨だもんね。でも、ラーメンよりも、長崎はチャンポン。どっちも、あまり好きじゃない。
 蕎麦屋もないね。うどん屋はあるけど。だから、蕎麦もうちは自家製。蕎麦は花もきれいだし、実を収穫したら、石臼でひいて、自分で打つ。おれは、料理は一切しないけど、蕎麦だけは自分で打つ。挽きたて、打ちたては、香りも味も違うもん。 


Q279:野菜や果物は、なんでもとれるんですか。 A279:そうね、たいがいのものはとれるね。北海道はジャガイモやトウモロコシが有名だけど、こっちでもとれるからね。ただ、リンゴはあまりよくできないか。おもしろいのは、タラの芽なんかはいくらでも道ばたになってるんだけど、誰も採らない。だから、採り放題。ほかに食べるものがいっぱいあるから、「そんなもんまで採って食べんちゃよか!」って。これはうれしい。


Q280:魚介類もとれて、いいですね。 A280:食べ物だけは贅沢だよね。何でもとれたてで、新鮮だし。もう、死んだ魚なんて食えないもんね。