プライバシーって何?

Q21:いつものぞかれたり、押し掛けられたりでは、プライバシーがないような気がしますが。 A21:プライバシー? そんなのあるわけないじゃないですか。常識ですよ、田舎の。
「プライバシーっちゃ、なんね?」 と聞かれますよ、多分。
 まあ、プライバシーを気にしてたら、田舎じゃ生きて行かれないでしょうね。
 これは、あきらめることです。


Q22:でも、知られたくないことだってあるでしょう。 A22:ありますよ、そりゃ。
 
でも、無理です。


Q23:どういうふうに無理なんですか。 A23:そうね、たとえば、長崎市内のほうへ買い物に行くとしますね。
 車で家を出る。出たところで近所のひとに会う。
「どこ行くと?」と聞かれます。必ず聞かれます。

「ちょっとそこまで」と答えますよね。すると「ちょっとって、どこね?」ときます。
しょうがないから「長崎まで」と言いますよ。長崎へ行くんだから。
こんどは「長崎のどこね?」と聞いてくる。「長崎の出島まで」と答える。
「何しに?」「買い物」
「なんば買うと?」「本」
「何の本?」「パソコンの本」
まあ、このへんまでくると「そうか、長崎の出島までパソコンの本を買いに行くのか。分かった」と許してくれる。そこで釈放。


Q24:しつこいですねえ。 A24:ぜんぶ白状しないと放してくれない。
 もちろん、全員がそうだというわけじゃないですよ。そういうひとが多いということ。


Q25:なんで、そんなにしつこく根ほり葉ほり聞くんですかね。 A25:知らないよ。こっちが聞きたいくらいだよ。
 でもね、おもしろいのは、これが逆のケースだったとするよね。向こうが出かけるところへ、おれがぶつかったと。こっちはまあ、「やあ」とあいさつはしますよ。知った顔だから。でも、誰がどこへ行こうと構わないし、関心もないからそのままやり過ごそうとするんだけど、向こうが車を止めてみんなしゃべっちゃうの。
「きょうは、ちょっと暇のできたけん、長崎の浜ん町まで孫のランドセルば買いに行って来る。こんど学校に入るので買うてやらんば思うて。上の孫の時も買うてやったしな」と、教えてくれる。


Q26:聞いてもいないのに。 A26:うん、だからまあ、これもただのあいさつなんだよね。近所の人の動向を知っておきたい、また知らせてもおきたいと。知ってなにをしようというんではなく、知っておけばあるいは知らせておけば、何かの時に対処ができる。たとえば、急に雨が降ってくれば、洗濯物なんか取り込んでくれる。ビニールハウスが開いていれば閉じてくれる。お客さんが来れば、「きょうは長崎に行ったから夕方まで帰りませんよ」とかね。いいことなんだよ、これは。


Q27:そうですかね。 A27:そうだよ。うちなんか、それでずいぶん助けられたよ。だいたいさ、都会のマンションなんかでさ、隣の人と挨拶もしないとか、何をしてる人か分からないなんていうことがあるけど、そっちのほうがおかしいんじゃない。


Q28:うん、それもそうだけど。なにもすべてオープンにしなくても。 A28:しなくてもといっても、なっちゃうのよ。本人がしゃべらなくても、ほかの人がみんなしゃべっちゃうから。
「あそこの娘は大阪へ嫁いだんだけど、父ちゃんが女をつくってね、帰ってこない。で、子供ふたり連れて戻って来た。まあ、あの娘も働けばいいのに、パチンコばっかり行って」なんてね。こっちが聞いてもいないのにだよ。


Q29:怖いですね。 A29:怖い。


Q30:隠し事はできない。 A30:そう、最近、ディスクロージャー(情報公開)ということがあちこちで叫ばれているけど、田舎ではそんなもん叫ばなくてもいい。黙っていてもぜんぶ情報公開。