32 脱サラはよしな

Q311:会社を辞めて、思い切って田舎暮らしをしたいと思うんですけど、どうですかね。 A311:どうって。ほんとに会社辞めちゃうの。
 サラリーマンのほうが、気楽でいいと思うけどなあ。
 百姓や漁師は、大変だよ。実際にやってみると。晴れた日ばかりじゃないんだから。


Q312:それは分かっているつもりですけど。 A312:生活パターンが、180度違っちゃうからね。


Q313:たとえば、何がいちばん変わりますか。 A313:職住接近。通勤がない。通勤の楽しみがなくなっちゃう。これに耐えられる?


Q314:通勤なんて、ないほうがいいじゃないですか。 A314:それが、素人の赤坂見附(寒ぶ!)。通勤の楽しさってものは、やめてみないと分からないんだよね。
 まずね、痴漢ができない。満員電車に乗らないから。それでもいいの?


Q315:ぼくは、痴漢なんてしませんよ。 A315:ホント? なんか、してそうな顔してるよ。真面目な顔してるから。あれって、だいたい一見真面目そうなやつがするんだからね。おれみたいに、いかにもって顔したやつはやらないんだよ。ホントだよ。
 それからね、駅の階段を上らないから、ミニ・スカートものぞけない。だいたい、こっちにはミニ・スカートをはいてる若い女性がいないんだから、どこにも。これは、つらいと思うよ。


Q316:そういう趣味はありませんから、大丈夫ですっ。なに言ってんですか。 A316:ほらほら、ずいぶん、ムキになってんじゃない。怪しいぞ。
 そうだ、あとね、いつも会うオネエチャンっているじゃない。出勤時間が同じでさ。それに会えなくなる。帰りだったら、あとをつけることもできなくなる。


Q317:それって、ストーカーじゃないですか。 A317:あれ、したことない?


Q318:ありませんよ。ふざけないでくださいよ。 A318:あのね、真面目な話、急に通勤がなくなるとね、最初のうち慣れるまで、なんかおかしいんだよね。よく、定年になった人が家にいられなくて、弁当持って電車に乗って、都内の公園かなんかに行って時間をつぶすとかっていう話があるじゃない。あれね、分かるよ。そんな気になるんだって。


Q319:マジっすか。 A319:マジで。電車の中で、おれは毎日、本を読んでたんだけど、それができなくなったのが、いちばんつらいかな。田舎へ来てから、本をぜんぜん読まなくなったもんね。時間はあるんだけど、それは本を読むという時間じゃないんだよね。通勤の途中というのはまったくの無駄時間で、本を読むには最適であったわけよね。


Q320:そうですよね。 A320:あとね、車内吊り、中吊り広告が読めないのがつらい。
 あれを読んで、週刊誌を買ったり、買わなくてもおおよそのニュースが分かるじゃない。いまは、週刊誌を読むことも出来ないし、隣の人のスポーツ新聞をのぞき見することもできない。ニュースは、テレビでしか知ることができない。だから、どうしたって、遅れるよね。脱サラして田舎暮らしをしようとしたら、そういうことも考えておかなくちゃね。