多い葬式、少ない結婚式

Q61:葬式は近所の人たちでやるということですが、どういう感じなんですか。 A61:まず、亡くなった人の家族が、自分の所属する班の班長に連絡する。班長はその班の人全員にそれを伝える。そして全員集合。遺族を交えて葬儀の相談。みんなもう慣れてるから手際がいい。葬儀屋、お寺、関係者への連絡、料理の献立(班のノートに書いてある)、買い物に走る者、お坊さんを迎えに行く者、案内を貼りに行く者、付近の道路の草払いをする者が決まり、パッ、パッと動く。女性陣も全員出動で台所。大きな鍋や釜も誰かが持ってくる(誰が持っているかもみんな知っている)。台所をしきるバア様もいる。「葬式のにぎりは丸くなきゃだめ!」なんて、うちの母ちゃん怒られてた。知らないで三角のおにぎりをつくっちゃったんだって。そんなの知らないよなあ。


Q62:全員集合といっても、急な話で連絡の取れない人もいるでしょう。 A62:連絡が取れないなんていう人はまずいない。誰がどこへ行ってるかは、前にも言ったけどみんな知っているから。そうそう、連絡といえば一度、夜中の3時頃に班長から電話がかかってきて驚いたことがある。「いま誰それが亡くなったので、これから町道の草払いをする」って。


Q63:会社に勤めてる人とかはどうするんですか。 A63:すぐ帰ってきてもらう。会社の上司も、そういうもんだと心得ているからすぐ許しをくれる。次の日も当然、休み。


Q64:次の日も? A64:告別式でしょ。出棺の担ぎ手もやらなきゃいけないし、交通整理とか、旗づくりとか、ほかにもやることが山ほどある。旗というのは、のぼりみたいなやつで白、青、ピンクと、錦の旗を軒先に立てるんだけど、その竹を切りに行ったり、あとワラと紙で蛇(じゃ)もつくる。竹の箸もたくさんつくる。葬式があると、そんなこんなでまあ、2日か3日は完全につぶれる。
 いや、それだけじゃない。初七日やら四十九日やら、まだまだ続く。うちは関係ないけど、親戚の人なんかは、七日ごとに行かなきゃならないから見てると大変だよ、ただじゃ行かれないしね。


Q65:でも、葬式なんてそうたびたびあるもんじゃないでしょう。 A65:ところがどっこい。この辺は超高齢社会だから…。おれが班長してたときなんか、年に5件もあったんだぜ。都会にいたときなんか、何年かに1回あるかどうかだったからね。驚くよ。


Q66:結婚式はどうですか。 A66:結婚式はないね。めったにない。いまどき、農家にお嫁さん来ないもん。だから、40代、50代の独身者があっちにもこっちにも大勢いる。逆に女性の独身者はあんまりいないね。みんなよそへ出て行っちゃうから。
 うちのすぐ近くにゴルフ場ができたんだけど、そこがクラブハウスの並びに結婚式場をつくったのね。なに考えてんだろうな、と思ったんだけど、案の定、利用者なんていないよね。そこの営業課長がしょっちゅううちへ来てはぼやいてた。結局、年に1件しかとれないでその人、辞めちゃったけど。


Q67:全然ないんですか。 A67:いや、まったくないわけじゃないよ。自宅から長崎市内のほうへ通っている人もいるし、役場とか農協とか町立病院とかに行ってる若者もいるんだから。おれもいままでに2回呼ばれたかな。
 この結婚式に呼ばれるっていうのは大事なことでね、「地元の人間として認められた」という意味を持つんだよね。


Q68:結婚式はやはり派手婚ですか。 A68:昔は、狭い山道しかなかったから、花嫁はみんな船で来たって言ってた。
もちろん昔はどこも自宅でね。2日、3日は当たり前だったらしいよ。いまは町の料理屋の宴会場や、長崎市内のホテルだね。


Q69:いまは都会並みということですか。 A69:いやいや、披露宴がすごい。招待客が300人や400人だもん。
 ついこの間も、知り合いの娘さんが近く結婚すると聞いたので、招待客は何人くらい呼ぶんですかと聞いたら「いや、うちは親戚が少ないから、たった300人くらいのもんですよ」だって。
 一度に入りきれないので、2日間に分けて披露宴をしたひともいるよ。


Q70:芸能人並みですね。 A70:時間だって、ふつう2時間ぐらいでしょう。こっちは延々4時間ぐらいやってるからね。で、お開きになってから今度は場所を移してもう1回。さらに親しい人は自宅に呼ばれて…。
 あ、それとね、引き出物の大きさが人によって違うの。祝い金の額によって変わるのか否かは知らないけれど、これはちょっと驚いたね。何人かで一緒になって帰るのを見ていると、大きい人、中くらいの人、小さい人と持っている荷物の大きさがまちまちでね。「おれのは小さい」なんて誰も言ってはいないけどさ、すごいよね。