自給自足
  半農半漁
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物語
自給自足で
自然に暮らす
人生の楽園


2 西部の開拓者 (荒れた土地を開墾)
 ここでは、わが家の暮らしぶりを書いてみたい。
 いまでこそ、野菜をつくり、魚を捕って、自給自足に近い暮らしをしてはいるけれど、もちろん、初めからすべて順調にいったわけではない。
 だいいち、ぼくたちは、最初、自分たちの畑さえもっていなかったのだ。
 漁業をするのに必要な漁業権に至っては、移住4年目にして、やっと手に入れることができたのだった。
 いろいろやっかいな手続きを踏み、ぼくたちは、移住してすぐ琴海町のIターン第1号、新規就農者になれた。それは誠にラッキーだったのだが、土地はまだ、家を建てるだけの敷地しか確保できていなかった。そこで、まず、畑を借りることからスタートした。
 幸い、家の目の前の畑を借りることができた。借り賃は、無償でよいとのこと。これには、ぼくも妻も目を丸くしたが、まわりの人たちが、「それでいいのだ」と言ってくれるので、素直にうなずいて、早速、ホームセンターへ走った。
 クワと、スコップと、カマを買った。
 借りた土地は、「昔は畑だった」と言うのだが、畑を思わせる様子は、どこにも見当たらなかった。畑というより、雑木林と言ったほうが近く、太いハゼの木が何本も生い茂っていた。直径1メートルはあろうかというカヤのかぶが、いくつも並んでいた。
 広さは、約500坪。 
 
 ぼくは、学校を出てすぐ東京の出版社に就職し、そこで編集の仕事をずっとしてきた。つまり、ペン1本しか持ったことがない。むろん、クワを持つのも初めてなら、カマを振るうのも初体験。妻は、1坪家庭菜園を借りてやっていたので、ゴルフにたとえれば、そう、コースに出たことはないが練習場で打ったことはあるビギナー、といったところか。いずれにしろ、二人とも、ど素人。普通、新規就農ということになれば、どこかでそれなりの研修くらいはうけてくるものだが、この二人には、そういう真面目さがない。何を始めるにも、「なんとかなるだろう」で済ませる極楽とんぼ。
 カマで草を払い、クワとスコップでカヤの根っこを掘る。大きく育ちすぎたカヤは、軟弱な都会育ちがいくら汗をかいたって、簡単には掘り出せない。
 3日目にクワが折れ、5日目にはスコップがブッ壊れた。1週間目の朝、目を覚まして、ぼくと妻は顔を見合わせた。二人とも、両手の指がクワを握った形のまま曲がっている。指を1本ずつ片方の手で伸ばしてやらないと、手が開かないのだ。
 バネ指と呼ぶらしいが、もちろん、その時、そんなことは知らない。
 ハゼの木は、チェーンソーを買ってきて、切り倒した。チェーンソーは簡単に木を倒してくれたが、問題は切り株だった。買い換えたスコップがまた壊れ、空を仰いでいたら、保育園の園長が、チェーンブロックを持ってきてくれた。力はいったが、根っこが少しずつ、ズルズルと引きずり出されてくるのを見ていると、まるで西部の開拓者になったような気分で、なんとも爽快だった。