自給自足
  半農半漁
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物語
自給自足で
自然に暮らす
人生の楽園


       31 カゴを編む (縄をなう)
 琴海町にも、100円ショップがオープンした。「みんなで行ってみよう」ということになって、バンに乗り合わせて出陣した。  
 「これも100円! 安か!」と、あれもこれもと手を出し、いらないものまで買って、結局、みんな2000円くらいの散在。その点、元都会人のぼくは冷静だから、100円の麦わら帽子1個だけ。だまされない。雰囲気にも飲まれない。
 でも、プラスチックのカゴ100円には、ちょっと迷った。モズク採りのときのより分けようにいいな、と思ったが、さんざん迷って元へ戻した。100円で迷うのもどうかと思うが、迷ってしまうのだからどうしようもない。
 カゴは、買わなくても、妻がつくる。妻は、カゴ編み名人だ。
 荒れ地や、裏山からクズを採ってきて、夜なべ仕事で編む。ぼくが言うのもおかしいけれど、なかなかイケテルのを編む。
    12月、葉っぱが落ちたのを見計らってクズを採りに行く。ぼくも一緒に行く。クズは、荒れた畑にいくらでも生えている。誰もほかに採る者はいないから、採り放題。いまどき、クズでカゴを編む人もいない。
 木にからまっているのは、ねじれて形のおもしろいのがあるから、カゴの取っ手などに使える。均整のとれたものより、味のあるものができる。3月には芽が出てくるので、2月までが採り頃。
 採ってすぐならそのまま使えるが、時間が経ってしまったときは、使う前に水に浸して柔らかくすれば作業が楽、とは妻の話。
 編んだカゴは、直売所へ持っていく。小さいもので500円、大きいカゴは3000円で、たちどころに売れてしまう。もっとほしいと、注文も来る。「あと10個ほしい」と言われたときは、妻もちょっとあわてていた。
 材料費はただ。誰も見向きもしないクズが、宝物に見えてくる。
 ぼくは、カゴは編まないが、縄はなう。師匠は、これも佐藤さん。
 稲刈りをしたワラをとっておき、それで縄をなう。縄だけでなく、正月用のしめ縄もつくる。ぞうりもつくる。
 こんなことは都会の人は知らないだろう(もちろん、ぼくも知らなかった)が、普通の縄は右なえといって右によじる。ところが、神事に使う縄は左なえで、左によじるのだそうだ。ぼくは、佐藤さんに教わる前に、勝手にしめ飾りを右に編んで玄関に飾り、「どうだ!自分でつくったんだぞ」と威張っていた。誰にも注意はされなかったが、そう言えば、その年は不漁が続いたし、米も不作だった。
      ぞうりづくりも、佐藤師匠から教わった。
 ワラをすいて、きれいなワラだけを取り出し、木の槌で叩いて柔らかくする。それを、足の親指に引っかけて編んでいく。30分ほどで片方を編み上げる。編み始めと、最後の締めるところが難しい。それに鼻緒を付ければ完成。もう片方も同じように編むわけだが、なかなか同じ大きさにならず、一筋縄ではいかない。師匠はさすがに手際よく、出来上がったものも美しい。
 左の写真は、ぼくが初めて編み上げた作品。左右のバランスがいまいちとれてない。でも、初めてにしては上出来(だよね)。
 赤と白の鼻緒が付けてあるのにはわけがある。赤ちゃんが1歳の誕生日を迎えたら、ワラで編んだぞうりを履かせ、ついたモチを踏ませるという風習がこの辺には昔からある。それを聞いて、初孫の誕生日に合わせてつくったのだ。ぼくは、このぞうりと、家でついたモチを持って、千葉に住む長男のところへ届けたのだった。