自給自足
  半農半漁
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物語
自給自足で
自然に暮らす
人生の楽園


7 サツマイモ (初めての収穫)
 生まれて初めての野良仕事は、開墾した土地を耕すことから始まった。
 小さな中古の耕耘機を、知人から5000円で譲ってもらい、土を起こした。大きな石がごろごろ出てきて、それを取り除いていると、トンビが、「ピーヒョロー」と上空を舞って、なんだか、アンデスに移住したような感じで、ケーナでも吹きたい気分になった。
 妻は、家庭菜園をやっていたので、少しは野良仕事の知識はあるようだったが、ぼくはまったくの初めて。何を、どう植えて、どう育てればよいのか、まったく分からない。それはいまでもあまり変わっていないのだけれど、とりあえず、力仕事だけは、ぼくの担当になった。耕したり、穴を掘ったり、石を運んだり。
 最初、妻は、インゲン、ナス、キュウリ、サトイモなどを植えたようだった。しばらくして、サツマイモも植えたと言っていた。どういう考えで、それらを選んだのかは知らない。農業に関しては、妻が、社長だった。なにせ、経験者だから。
   
「なんば植えたと?」。
 クワを振るっていると、近所のオバアサンが見に来た。
「サトイモを植えたんです」と、妻。
「こりゃまた、めずらしかよう。畝を縦に切ってるもん」
「え、これじゃいけないんですか」
「それじゃ、雨が降ったら、土が流れてしまうじゃろうに。水持ちも悪いし。おれたちは、斜面に対して横に切るとよ」
「……」
「それと、なして、畝の高いところに植えると」
「よその畑を見たら、畝の高いところに芽が出ていたので、高いところに植えるのかなと思って…」
「それは、違うと。初め低いところに植えて、そのあと、土を寄せて行って高くするとぞ」
「えっ、そうなんですか」

 数日後。
 また、オバアサンがやって来た。
「こんどは、なんば植えたと?」
「サツマイモですけど」と、妻。
「こりゃまた、めずらしかよう。苗を縦に突き刺してるもん」
「え、これじゃいけないんですか」
「それじゃ、ひとつしかならんじゃろう。おれたちは、苗を横に寝かせて植えると。そすればいっぱいなるけん」
「……」
    
 うーん、農業は甘かないぞ。
 ぼくは、いまだに、農業に関しては少し体が引けてしまう部分があるのだが、それはおそらく、出足の一歩の、あのオバアサンの一言が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になっているのではないかと思うことがある。
 だって、畑にいて、あのオバアサンが顔を見せると、また何か言われるんじゃないかと思って、ビクッとくるからね。
 それでも、野菜はエライと思う。
 サトイモも、サツマイモも、ちゃんと実ってくれたし、インゲン、ナス、キュウリも食卓を飾ってくれたのだから。
 かくて、ぼくたちの自給自足的暮らしは、曲がりなりにもスタートしたのだった。
 小春日和が続くある日、タマネギの苗を植えていると、また、オバアサンがきた。
 バアさまは、暇があるのだ。
「きょうは、なんば植えてると?」 
(見れば分かるのに)
「タマネギですけど」
「ここんとこ晴れ続きで、この様子じゃ、あしたも雨は降らんじゃろう。こんなとき植えても根がつかんよ」
「あやや」
「雨の降ったあとか、あした雨が降りそうというときに、タマネギは植えんば」
「……」
「お前さんたちは、おもしろかよう。ホッ、ホッ、ホッ」
「ハ、ハ、ハ」
「タコの笠を混ぜれば、タマネギは大きくなるとぞ」
「タコの笠って、なんですか」
「タコの笠は、タコの笠たい。海におるじゃろう」
「?」
「ヒトデのことたいね。あれを雨ざらしにして乾燥させ、塩分を抜いてから土に混ぜれば、それはよか肥料になると」
 で、できたのが、写真のようなジャンボ・タマネギ。
 バアさまは、エライのだ。バアさまは神様だ。バアさまは仏様だ。(いや、ホトケ様はまずいか)