平成21年6月24日 Vol 178
よかさ!
成銀(なりぎん)
 一緒に住んではいないが、わが家には孫が4人いる。
 いずれも男ばかりで、いちばん上は小学6年生、いちばん下はやっと歩き始めたところ。
 このよちよち坊主が、なぜかわが家系では異色のまるまる太り。将来恐るべしと思わせるほど顔から腕、足までぷりぷりで、まるで足柄山の金太郎のよう。そう、まさしく見た目は金太郎なのだが、でも、名前は「銀」という。
 この銀ちゃん、何かやらかそうというじいちゃんの予想通り、早くもやってくれました。
 先日、母親から電話が入った。
 「肺炎で入院したのですが、それでいろいろ診察してもらったら何かおかしいということになって、さらに詳しく調べてもらったら、臓器がぜんぶ左右逆についているってお医者さんが言うんです」。「なに、左右反対裏返しということは、心臓が右にあるってこと?」「そうなんです」
 あらら、じゃ、槍で左胸を刺されても死ぬとは限らないんだ。わおっ! いや、右胸を刺されたら死んじゃうんだからわおっ! じゃないか。
 知り合いの医者に聞いたところによれば、何百万人にひとりの割合ぐらいでいるのだとか。
 母親はびっくり仰天して心配していたが、でも、じいちゃんはそんなことでは驚かないぞ。実は、じいちゃんも若い頃、「胃が反対向きに付いている」と医者からレントゲン写真を見せられて言われたことがあるのだ。その後、何度か胃カメラを飲んだりしたことがあるが、何も言われないのでいつの間にか元に戻ってしまったのかもしれない。無いならこれは心配だが、反対でも付いているのだから騒ぐことはない。脳が左巻きなら心配だけど。
 将棋で言えば、銀が裏返れば成銀で金になる。斜め後ろにしか下がれなかったのが、横や真後ろに動けるようになって、さらに強くなるんだ。いいじゃないか。
 
無愛想の鉄人
 その銀ちゃんのお兄ちゃんが「鉄」と言う。鉄は熱いうちに打てば強くなると言うからこちらも早く打ってもらいたいが、おじいちゃんも若い頃にいろいろ悪いやつらに鍛えられたお陰で、大きくなって鉄人と呼ばれるまでになった。そしていまや「鉄人の宿」のおやじだ。
 すごいじゃないか。別にすごくないか。
 その鉄人の宿が、体験民宿も、海の見えるカフェも大方の予想に反して、繁盛している。
 繁盛と言っても、自分たちで繁盛していると驚いているだけで、いわゆる普通の繁盛ではないので念のため。よく「毎日、お客さんですか」と聞かれるが、とんでもない。週末にときどきお客さんがあるだけで、平日はほんのたまにという状況。
 ことしの5月、6月はほぼ毎週末、お客さんでてんてこ舞いしたが、その程度で繁盛と言うのは、そんなことまったく予想もしてなかったからだ。体験民宿は月に1組、カフェのほうは週末に1組もあればいいんじゃないの、程度に考えていたのだ。だって、そうでしょ。こんな何もない田舎にお客さんが来てくれますか。普通、来ないでしょう。
 ま、地元のテレビや雑誌が何度も取り上げてくれたので、そのお陰なのだけど、あとはやっぱり、この「田舎暮らし狂想曲」のファンの皆様あってのこと。ありがとうございます。
 お陰様で、泊まって頂いたお客様、カフェでコーヒーを召し上がって頂いたお客様からは、大変喜ばれております。また季節を変えて来てみたいというお言葉も多く頂きます。こちらこそ、いろいろ楽しませて頂いて、新しい出会いに感謝感謝です。
 でも、これはなんでしょう。先日、こんな匿名の葉書が舞い込みました。
「以前、テレビで紹介されたので訪ねたことがありますが、冷たい態度をとられました。またテレビに出てましたが、こんどは冷たい応対はしないようにして下さい」というお叱り。
 心当たりはある。
 テレビで紹介されるとその直後は、考えられないほど多くの見学者が訪ねてきて、それもほとんど事前の連絡無しで、コンニチハの挨拶もなく、どこの誰と名乗りもせず、いきなりずかずかと庭まで入ってくる。そして「あ、これが露天風呂か、なんだ、もっと大きいのかと思ったのに」などとのたまふ。なかには庭から家の中をのぞき込んで「あ、囲炉裏でご飯食べてる」などと指を差すすごいオバサンもいたりして、自宅でご飯を食べてるところを突然知らない人に指を差されたくはないので、これには大変驚くわけで、別にこちらからどうぞいらして下さいと招いたわけでもないから「なんでしょうか」と尋ねたくもなるわけで、それも週末ともなればひと組やふた組ではなくその都度、外で早く片づけなければならない仕事をしていても手を休めて応対しなければならないわけで、「またかよ」とそんなことが重なればとうてい笑顔で迎えることにもならないわけで、ついつい憮然となって機嫌も斜めに傾いてしまうわけ。
 近頃はたいがいそういうことにも慣らされてきて、しかもエイギョウとなればどんな人にも愛想のひとつも言わなきゃいけないくらいのことは分かっているので声も柔らかくなってきて、先日は大阪の人から問い合わせの電話があった際、こんなことを言われた。
 「あれ、金子はんでっか。ホームページに無愛想と書いたったけど、ぜんぜん違うやおまへんか」と笑われた。
 そう、二重人格健在! なのである。