平成14年3月5日 Vol 40
モズク漁解禁 
 3月1日、モズク漁が解禁になった。
 午前7時から11時まで。4時間限りの漁。
 漁師になって2年間、父ちゃんは、モズクがとれなかった。とれないで、いつも泣いて帰ってきた。「もう、やめた!」と何度、やけを起こして竿を放り投げたか。でも、また行く。悔しいからな。
 なぜ、とれないか。モズクとそっくりな海藻があって、どっちが正しいモズクか、まったく区別がつかないのだ。近くにいる漁師に、「これ、モズクですよね」ととって見せると、「それは違う」と笑われる。何度、笑われたかしれない。それが、3年目に突然、とれた。ナマコにも泣かされたが、モズクにはもっと泣かされた。かように、漁というのは容易じゃないんだよ。
 去年はよくとれた。だから、ことしも勇んで出掛けた。収穫3.9`。思うようにとれなかった。佐藤師匠は22`。でもまあ、師匠たちは奥さんと二人がかりだからな。
 午後3時から出荷。みんな、港に集まる。みんな、大きなおけを持っている。父ちゃんのおけは小さい。知り合いのオバアサンが声を掛けてきた。「金子さん、どぎゃんじゃったね」「いや、ダメだったす」「おりゃあ、21`とったばい」「え、ひとりでですか」「そうさ」。
 父ちゃん、モズク漁は、好きじゃない。 
オランダ娘とデート
 オランダから、友だちが遊びに来た。
 オランダでスッチーをしているのだが、例の同
時多発テロ以来、航空会社が傾いて暇になり、
日本に仕事を探しに来たのだと言う。したがっ
て金はあまり持たない。知り合いに事情を話し
たが、いい返事はもらえなかったらしい。
 以前から、うちの露天風呂が大のお気に入
りの彼女だが、ただいま「極楽湯」は冬季休
業中なので、翌日、嬉野温泉に連れて行った。
山の中の露天風呂はまた趣が違って、なかな
かだった。
 オランダには温泉がないので、ひさしぶりの露天風呂に彼女は大はしゃぎ。ちなみ
に、オランダ娘は混浴はノープロブレム。だいいち、オランダではサウナでも素っ裸で
混浴だそうな。うーん、父ちゃん、オランダに住みたいぞ。
 おととしだったか、別のオランダ娘が二人、うちへ遊びに来て、そのときは明るくみん
なで極楽湯したっけ。あのときは、「露天風呂をつくっておいてよかったな」と、つくづく
思ったもんな。みなさんにも、ぜひ、露天風呂をつくるようにお勧め致します。
 温泉の翌日は、長崎市内観光。父ちゃん、若いお嬢さんにだけはとことん親切なの
だ。
 金髪のお嬢さんとデートなんて、なかなかできるもんじゃないからな。(母ちゃん、ご
めんな。でも、足を骨折してちゃあ、歩けないもんな)。
 かくて、父ちゃんには、スプリング・ハズ・カムなのであった。
 ラッキー! なのであった。
オバサン4人組
 長崎駅のプラットホーム。大粒の涙をいっぱいためて、白い口ひげを蓄えた初老の男
との別離を悲しむ彼女。濡れた頬をすりつける彼女の顔を優しく起こし、男はただひとこ
と、「ボン・ボワイヤージュ」と言うのだった。女がうなずく。ドアが閉まる。
 「ダーバーダ、ダバダバダ、ダバダバダ…」
 父ちゃんは、車を走らせながら、「男と女」を口ずさむ。いい3日間だった。
 家に帰って、夕映えの町道をジョギングしていると、いきなり車が止まって声を掛けら
れた。「金子さんですか」「やっぱりそうだ」「テレビで見ました」「テレビとおんなじ顔だ」
「家、見せてもらえますか」。
 オバサン4人組。どやどやと。
 「わー、きれい」「露天風呂はどこですか」「きゃー、すてき」「わー」
 父ちゃん、きょうは、静かにしてもらいたかった。
卒業証書授与式
 父ちゃん、はっきり言って、ババアは嫌いだ。
 男はな、たまにはな、「セ・ラ・ビィ」などと気取ってな、薄紫に染まりゆく海をひとりで眺め
ていたい気分の時もあるのだよ。
 まあ、いいけどさ。
 同じように、よその子供もあまり好きじゃないんだけど、なぜか、昔から子供にはもてるん
だな。
 地域の小学校から招待状が届いた。卒業証書授与式に出て欲しいとのこと。「なんで?」
っていう感じだが、母ちゃんに言わせると、考えられないことではないのだそうだ。さて、ど
うしたもんか。よく分かんねえ。 
『夢田舎』
 何年ぶりかで、校正をした。
 雑誌『夢田舎』の初校が届いたのだ。7ページもある。写真もでっかくレイアウトされている。写真を撮られるのは嫌いなはずなのに、笑っている。オフィスダイナマイトの本條君は原稿を書かせるのもうまいけど、写真を撮るのも上手。
 3月30日発売。リニューアルの『夢田舎』。どうぞ、お楽しみに。
 父ちゃんの原稿なんか読まなくたっていいんだけど、雑誌は買ってください。本條君は古い友だちなんです。売れると、本條君が喜びます。友だちが喜べば、父ちゃんもうれしくなります。