ベヘモス


前200年頃『ヨブ記』第40章(日本聖書協会訳『聖書』iconより)
 河馬を見よ、これはあなたと同様にわたしが造ったもので、牛のように草を食う。見よ、その力は腰にあり、その勢いは腹の筋にある。これはその尾を香柏のように動かし、そのももの筋は互いにからみ合う。その骨は青銅の管のようで、その肋骨は鉄の棒のようだ。これは神のわざの第一のものであって、これを造った者がこれにつるぎを授けた。
 この「河馬」の部分が「behemoth」にあたる。草食動物らしい。

1世紀頃『シリア語バルク黙示録』第29章(日本聖書学研究会編『聖書外典偽典5』iconより)
 またベヘモートがその塒から姿を現わし、レビヤタンは海中からのぼってくるであろう。この二匹の巨獣は創造の五日目にわたしが創って、生き残る者たちの食料としてそのときまでとっておくのである。
 これは主がバルクに語った言葉のひとつ。世の終末に生き残る人々の餌になるらしい。

1世紀頃『第四エズラ書』(関根正雄訳『旧約聖書外典』下巻icon/講談社文芸文庫)
 そののち、あなたは二つの生きものを生かしておかれました。その一つはベヘモートと名づけ、他の一つをレビアタンと名づけられたのです。あなたはこの二つを別々のところにはなしておかれました。なぜなら水があつまったあの第七の区域は、これら二つの生きものをいっしょに入れておくことができなかったからです。あなたはベヘモートには第三日目に水の干あがった土地、つまり多くの山のある陸地を住みかとして与え、一方レビヤタンには第七の区域、水のある場所をお与えになりました。あなたはあなたのよしとされる人が、よしとされる時に食べるためにこれらの生き物を生かしておられたのです。
 『シリア語バルク黙示録』では五日目だったのが、ここでは三日目になっている。同じように食料になるんだな。

1世紀頃『預言者の生涯』ダニエル(日本聖書学研究所訳『聖書外典偽典別巻1』iconより)
 しかし彼は家畜の心に戻り、自分が人間であったことを忘れた。
 彼というのはネブカネザル王のこと。ある日、ネブカネザル王は頭と身体の前半が牛、脚と身体の後半がライオンの姿の、家畜になったという。この家畜がヘブライ語では「behemoth」になっている。

8世紀頃『エチオピア語エノク書』第60章(日本聖書学研究会編『聖書外典偽典4』iconより)
 その日、二匹の怪獣は分かれ、レヴィヤタンという名の雌の怪獣は海のどん底、水の源の上に住み、名をベヘモットという雄は胸で眼に見えない荒野をつかんでいる。
 これはミカエルがエノクに語る言葉の中に出てくる話。レヴィヤタンとベヘモットが、アダムとイブのように対になって誕生しているのが興味深い。「この二匹の怪獣は神の大きさに従ってそなえられ、神の刑罰がむだにならないよう飼育されている」のだという。なお、この第60章は講談社文芸文庫の『旧約聖書外典』iconではカットされている。

1486年シュプレンゲル&クラメル『Malleus Maleficarum』Question IV(JD訳)
 ビヒモス、すなわち獣。なぜなら、彼は人間の獣性を生み出すからだ。
 これは日本では『魔女への鉄槌』と呼ばれる、魔女狩りテキスト。その中に悪魔に関する簡単な解説がある。ここではビヒモスは人間をケダモノにする存在としている。

1667年ミルトン『失楽園』icon第7巻(平井正穂訳/岩波文庫)
 大地から生まれたものの中でも最大のベヒーモスも、いわば、その鋳型から辛うじてその巨体をもちあげた。
 これは神が天地を創造し、動物達を産んだ場面の一節。注釈によると、「ミルトンは象と解した」という。

1812年コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』iconベヘモスの項(床鍋剛彦訳/講談社)
 威張っているが、鈍重かつ愚味な魔神。がっしりと逞しく、美食や大食を専門領分とする。地獄で膳部官と酌人頭を勤めるとする悪魔学者もいる。ボダンの説では、ベヘモスはヘブライ人を迫害したエジプトのファラオにほかならない。ヨブ記には巨大な怪物として描かれ、注釈者たちは鯨であるとか、象であるとか主張するが、それ以外の絶滅種かもしれぬ。
 イラストは象の姿で描かれている。



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