前200年頃『サムエル記上』第6章(日本聖書協会訳『聖書』より)
そしてペリシテびとはその神の箱を取ってダゴンの宮に運びこみ、ダゴンのかたわらに置いた。アシドドの人々が、次の日、早く起きて見ると、ダゴンが主の箱の前に、うつむきに地に倒れていたので、彼らはダゴンを起こして、それをもとの位置に置いた。その次の朝また早く起きて見ると、ダゴンはまた、主の箱の前に、うつむきに地に倒れていた。そしてダゴンの頭と両手とは切れて離れ、しきいの上にあり、ダゴンはただ胴体だけとなっていた。
引き続き、イスラエル人はペリシテ人と戦争し、この頃はペリシテ人の圧勝だった。イスラエル人は「契約の箱」を持って戦ったものの敗れ、箱をペリシテ人に奪われてしまう。ペリシテ人たちは、この箱をダゴンの神殿においたところ、ダゴンの像が破壊されてしまった、というのがこの記事である。この箱はさらにペリシテ人たちに災厄をもたらし、結局、イスラエル人に返されることとなる。
1667年ミルトン『失楽園』第1巻(平井正穂訳/岩波文庫)
その名はダゴン、海の怪物、――上半身は人間だが、下半身は魚であった。このような姿にもかかわらず、彼はパレスチナの全域にわたって畏れられ、その宏壮な神殿は、アゾトに、ガテに、アシケロンに、アッカロンに、さらにまたガザの辺境にいたるまで、高々と聳えたっていた。
ちなみにペリシテ人を語源として、パレスチナという言葉が生まれたらしい。
1812年コラン・ド・プランシー『地獄の事典』ダゴンの項(床鍋剛彦訳/講談社)
ペグーではダゴンは造物主と見なされ、いつの日かキアキア(ペグーの魔神)がこの世界を破壊することがあっても、ダゴンあるいはダグンが別の世界を新たに出現させ、それは以前の世界よりずっと美しく、ずっと住みやすいものになるだろうと信じられている。
ペグーはビルマ南部。いきなり、話がメソポタミアからアジアへ飛んでいる。1説によると、ダゴンを崇拝したフェニキア人たちが、海のシルクロードを通って、アジアまで来たという。朝鮮のダンクン神話なんかが、その名残とか(鹿島昇『日本神道の謎』による)。