1667年ミルトン『失楽園』第1巻(平井正穂訳/岩波文庫)
すると何としたことか、そこに忽然と現れたのは「混沌」の玉座であり、そして荒涼無残な深淵を広く覆った陰々たるその天蓋であった。その玉座には「混沌」の他に、統治の一端を担う、そしてあらゆるものの中で最も年老いた「夜」が、黒衣を纏って座っていた。彼らの傍には、オルクスとハデスが、またさらにあの恐ろしいデモゴルゴンその者が、侍立していた。
『失楽園』では、神が「ロゴス」によって世界を生み出す以前、ヘロドトスに基づいて、「混沌」と「夜」が支配していたという。その「混沌」の眷属としてデモゴルゴンは挙げられているが、注釈にはミルトンは「混沌」と同一視していたこともある、という。デモゴルゴンはプラトンの「デミウルゴス」が訛ったものだとされるが、現時点では情報が少なすぎて、よくわからない。注釈にルカヌス(39〜65)の『ファルサリア』6・744で初めて使用されたと書いてあるが、英文テキストで確認がとれなかった。
1820年シェリ−『鎖を解かれたプロメテウス』(石川重俊訳/岩波文庫)
そこに、もがき苦しむ影のあなたがいる、そして懸けられている、旋風が群がるところに、――すべての神々がそこにいる。世界を支配する名状しがたいあらゆる霊力が、おびただしい数の、笏を持つ幻影、――英雄や人間や獣が、そして、恐ろしい暗黒のデモゴルゴンも、――そして、暴虐なる最高の権力、かのものも燃えさかり輝く玉座にいる。
『鎖を解かれたプロメテウス』は、タイトル通りギリシア・ローマ神話を題材とした戯曲で、プロメテウス、ジュピター、アポロンなどに混じって、主要なキャラとして、デモゴルゴンがでてきている。おそらく、日本語で読める唯一のデモゴルゴン神話。注釈によると、「創造や法則の中に隠れて存在し、あらゆる生命と進歩の根源の力であり、それ自らが必然で自由なものと考えられている」という。他にもボッカチォなどが言及しているらしいが、現時点では確認不能。