シェミハザ


8世紀頃『エチオピア語エノク書』第6章(日本聖書学研究会編『聖書外典偽典5』iconより)
 そのころ人の子らが数を増していくと、彼らに見自麗しい美人の娘たちが生まれた。これを見たみ使いたち、すなわち天の子たちは彼女らに魅せられ、「さて、さて、あの人の子らの中からおのおの嫁を選び、子をもうけようではないか」と、言いかわした。彼らのなかの筆頭たるシェミハザが言いだした。「実は、あなたがたはこういうことが実行されるのをひょっとすると好まず、わたしだけがこのけしからん悪事のしりぬぐいをするはめになるのではないかと心配なのだ」。彼らは異口同音に答えた。「この計画をふいにしないこと、これを確実に実行することをいっしょにはっきりと誓い、誓いを破った者は仲間はずれにするとしよう」。そこで一同は誓いをたて、そこで仲間はずれを罰とする誓いを結んだ。そこに居合わせたのは合計二○○人であった。
 『旧約聖書』iconの『創世記』第6章に「神の子たちは人の娘の美しいのを見て、自分の好む者を妻にめとった」という堕天エピソードがあり、そこでは天使たちは名無しさんであるが、この『エチオピア語エノク書』には天使たちの名前が記されており、その筆頭としてシェミハザがあげらている。地上に降りたシェミハザは、「すぺての魔法便いと草木の根を断つ者」とを教えとあるが、意味のわからない訳だ‥‥(英文テキストでは、「all the sorcerers, and dividers of roots」となってた。すべての魔術師と、その根源を断つってとこか?)。シェミハザ以外の天使は、アラキバ、ラメエル、コカビエル、アキベエル、タミエル、ラムエル、ダネル、ニゼケエル、パラクエル、アサエル、アルメルス、バトラエル、アナニエル、ザキエル、シャムシエル、サルタエル、トゥルエル、ヨムヤエル、サハリエルなどなど。日本聖書学研究会編『聖書外典偽典5』iconの注釈によると、「シェミハザ」という表記は「クムラン出土のアラム語エノク書断片から回復された形」だそうで、そのためか、表記は資料によってまちまちになっている。ここのファイル名はリチャード・ローレンスの英文テキストを参考にしたが、ゲティングズ『悪魔の事典』iconでは「サムヤサ(samyasa)」、ベルティ『天国と地獄の百科』iconでは、「シェミアザ(shemyaza、shemeyaza、shemhazai、shamazya、amezyarak)」となっている。なお、参考にした『聖書外典偽典5』iconは値段が高いが、講談社文芸文庫の『旧約聖書外典』icon(1050円)にも抄訳がある。



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