沖縄その2


1998年5月16日〜17日
 うちの兄が闇商売で儲けたお金で、家族を沖縄に連れていってくれるというので、十数年ぶりに家族旅行をすることになった。私はちょうど、沖縄に引っ越した知り合いがいたので、その人と連絡を取り、会おうということになったのだが‥‥沖縄空港について連絡してみても、いっこうに捕まらず。後から聞いた話によると、この日、会社でゴタゴタが起こっていて、行くに行けない状態だったらしい。すでに家族とは別行動をとっていたので、仕方なく、私は独りで行動することになる。
 さて。独りで行動することになった私は、まずホテルでチェックインの手続きをした後に、かの星野之宣の『ヤマタイカ』に登場した沖縄神女の島・〈久高島〉へ渡ってみることにした。『ヤマタイカ』というのは、沖縄神女の末裔であり、〈久高島〉で育ったヒロインが、日本各地の遺跡や霊場をめぐり、日本に霊的な革命を起こそうとする話。神話マニアの間では、人気のあるマンガだ。〈久高島〉は、琉球創造の神アマミキヨが天下った神の島である。12年に一度、イザイホーと呼ばれる神女たちの神事が行われていたが、今では過疎化が進んでしまい、1980年に廃止されたらしい。『るるぶ沖縄』などによると、〈久高島〉へは、馬天港と知念海洋レジャーセンターの二カ所から船が出ているようだ。知念海洋レジャーセンターの方だと、同じく『ヤマタイカ』に登場した〈斎場御嶽〉に近いのでそちらにタクシーで行ってみることにする。
 タクシーの中から沖縄の街並みを見ていると、やっぱり肌が焼けている人が多い。髪の毛の色も、日光で脱色した感じになっている。つまり、沖縄の女学生は天然でコギャル化しているわけで、安室奈美恵がコギャルの教祖だった理由が理解できたような気がした。
 やがてタクシーが知念海洋レジャーセンターに着く。きちんとした建物があるかと思いきや、まだ開発中らしくて、乗り場はお粗末な感じだった。乗る船も大きくないボート。私は定期的に便が出ていると思っていたのだが、どやら希望がある時に出発する仕組みになっていたらしい。料金は一人で行くと5000円とられ、二人以上だと一人2800円。ちなみに、馬天港だと一日に四便くらいしかでてないらしい。私が行った時、ちょうど出発しようとしていた男二人組がいたので、それに便乗させてもらって、2800円ですんだ。よく考えると、かなり運が良かった。ここから〈久高島〉へは、20分くらいでつく。島にいた時間は、2時間程度。
 島は、南の方に住宅地がチラッとあり、北の方は畑や林といった感じ。ここは神聖な島なので、開発は行わない云々の看板が港口にあった。事前にもらっていた地図を見ると、とにかく道を北に向かってまっすぐ進んでいけば、〈カベール岬〉というところで行きどまりになるようだ。ひとまず、私はそこへ歩いて向かうことにしたが‥‥けっこう距離があったりする。道の右手は海だが、波風よけの木々が景色を遮っている。左手は、畑があったり森があったり。歩きやすいアジアなジャングルを歩いている気分。この日は曇りだったから歩きやすかったけれど、これが真夏だったなら、私は蒸発していたことだろう。ヘトヘトになりながら、岬につく。確認はできなかったけれど、たぶんここが〈カベール岬〉なんだろう。
 たぶん〈カベール岬〉だろうと思われる場所に立つと、太平洋が一望できる。なんて清々しい光景、見渡す限りの青い海である。岬から下を覗いてみると、綺麗な砂浜が崖に隠されるカタチであった。このような光景を見ると、いままでの道のりの疲れも忘れてしまう。浜に降りてみようかと思ったけれど、降りれそうにない。もしかすると、ここが『ヤマタイカ』でヤマトゥ祭をしていたところではないだろうか。思ったよりも時間がかかってまったので、急いで住宅地へ戻っていく途中、〈クボー御嶽〉という標識を発見。それにしたがって行ってみると、ここは男子禁制の聖域だった。外から中を覗いてみると、真っ暗で気持ちが悪い。でも、誰も近くにいないようなので、かまわず入ってみる。すると、森の中に、光のそそぐ小さな広場があるという感じだった。崇拝の対象となるようなものもなく、ほんとに、自然を信仰するための場所という感じ。ここで綺麗な女性が神に捧げる舞を踊っていたら綺麗だろうなあと思ってみた。
 しかし‥‥どうも過疎化が進んでいるためか、私が滞在していた2時間の間に、若い女性を見かけたのは、港の売店で店の手伝いをしていた(たぶん家族経営なんだろう。やはり店内は安室奈美恵の歌が流れていた)、女の子がただひとりだった。後継者不足で、祭が行われなくなっているという話を事前に聞いてはいたけれど、当然のようにマンガに出てきたような女性はいなかったか‥‥。
 時間通りに迎えのボートがきたので、それに乗って久高島を立ち去る。ボートは底がガラスになっていて、海中が見れるというサービスつき。見るだけだけど。私も海に囲まれた所に住んではいるけれど、こんな風にボートで海を渡って島を渡るという経験は、なかなかやってない。空は曇っていたものの、雨が降ったりすることはなく、かえって涼しくて気持ちがいいくらいだった。なかなか楽しい島めぐりだった。

 それから沖縄島の方に帰って、次の目的地である〈斎場御嶽〉にむかうべく、タクシーを呼ぶことにする。しかし、待たされること1時間‥‥。やっとこさ来たタクシーに飛び乗って、「〈斎場御嶽〉に行ってください」と言ったが、タクシーの運ちゃんは、どこか場所がわからない様子。けっきょく、そのへん走り回って、やっとたどり着く。〈斎場御嶽〉はアマミキヨが造ったという七御嶽のひとつで、特に崇敬された場所らしい。後で購入した『沖縄の文化財U』によれば、『おもろそうし』には「さやはたけ」として歌われ、神女の長・聞得大君の即位式「御新下り」が行われた場所らしい。『ヤマタイカ』では、物語はここから始まっている。ここで久高島から遠泳してきたという、ヒロイン他水着ギャルたちが登場しており、海沿いにあるように描かれていたが、実際は山の奥の方にあった。もしかすると、ここ数年で事情が変わったのかもしれないけど、よくわからん。〈斎場御嶽〉はいくつかの祀場があって、いずれも山の中の巨石のところにある。つまり、巨石信仰ではないかと思えた。いずれにしても時間が足りなさすぎて、よく確認できなかった。またこなくては。
 その後、そのまま待たせていたタクシーに乗り、那覇の方に戻って、ホテルへ。風呂に入りながら、家族が来るのを待つ。帰ってきた家族とともに国際通りを歩いていると、やっぱり観光客の多いこと。まだ5月だというのに薄着の女性も多く、すでに人々は夏気分になっている。やっぱ、沖縄はええなあ。今度は泳ぎにきたいものだ。

 次の日は、家族でタクシーに乗って、〈首里城〉などを普通に観光してまわる。〈首里城〉では、〈守礼門〉のところで、民族衣装コスプレをした女性と家族で記念撮影を撮る。王国の木造建築としては最大らしく、ぐるっとまわって見るには、なかなか見応えがある。それから琉球県立博物館などをまわって、沖縄12時の飛行機に乗って帰る。空港で買ったCD長間孝雄アヤメバンドの『南島小説』を聞きつつ、2,3日旅行の余韻にひたる。


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