高橋ひろ

雑誌は
自転車に
乗って
やってくる

 それはまだ書店のあるじが自転車に乗って各家庭に本を配達していた時代のことで した。 それは同時に町のそこかしこに12球団いずれかの帽子をかぶった少年達が闊歩して いた時代のことでもあります。 小学6年も10月位になると、どこから個人データが流出したのかクラスメートの各 家庭に 「中1時代」(旺文社)と「中1コース」(学研〜正確には「中学1年コース」 〜)の<入学準備号>のようなものが届くのでした。 「時代」は百恵ちゃん、「コー ス」は淳子ちゃんをそれぞれの専属キャラクターに据え、自らの雑誌をPRするという、 とどのつまりは「来年、あなたが中学生になったあかつきには是非、うちの雑誌を定 期購読して頂戴ね」 というある種<ごあいさつ>みたいなものです。 中身といえば、

@たわいない芸能ネタ
(ヒデキと愛犬ロッキーの散歩について/モ ントリオール五輪のアイドル、 横山樹理の一日/新人賞レースは本命内藤やす子か新 沼謙治か?など)
A中学生になるとこんな生活が待っている
(中学生のかばんの中 身拝見/クラブ活動はこんなに楽しい! /中間・期末テストなるものがあり勉強も大変 になる/性への目覚め など)
Bシール
(「重要」「ここがポイント!」など、ノー トに貼る為のもの。 僕は長い人生の中でこのシールを貼る楽しさによって小6のこの 一時期だけ、勉強をしたという実感がある)

などによって構成されていました。 うちにも「中1時代」からのそれが来ました。百恵ちゃんです。 しかし、他の級友 のところへは届いている「コース」からのそれはいつまでたっても来ません。 僕は一 気に百恵ちゃん派になりました。 『パールカラーにゆれて』(作曲/「たいやき君」 の佐瀬寿一)という当時の最新シングルを早速買いに行きました。 淳子は僕を黙殺し たが百恵様は忘れずにいてくれたのだと。 当然定期購読の予約は「時代」という事になります。
中学校の向かいにぽつんとあ る本屋さん(店の広さ6畳。石油ストーブの匂い)に ある秋の夕友達と2人、お金を 握って予約をしにいきました。
百恵ちゃんがふきだしで言っていた「予約をするとも れなく!」もらえるものとは万年筆でありました。 中学生の三種の神器といえば、腕 時計、UCLAのバッグ、そして万年筆。 その万年筆が時を待たずして手に入る! しかし!そんな景品の万年筆が上質のものであるはずがなく、
書き始めてそう時間 を置かずに青いインクは無惨にも沁みだし、 ペン先は筆圧に広がった末に折れ、 「万 年筆とはなんと書きにくく、壊れやすいものだろう!」 という印象だけが潜在意識に 刷り込まれ、あれ以来万年筆などというものは手にしていません。
 やがて冬になり年もあける頃になると、淳子ちゃんが高らかに歌うカンコー学生服 のCMが頻繁に流れ出し (15秒の本編が終わると、「平塚駅前〇〇洋品店、茅ヶ崎〇〇 通り〇〇屋」などと カンコー学生服の買える店を女性のアナウンスで読み上げる、と いうのが15秒続く。 画面には店名の文字が止まっている、ローカルCMのあれです)、 百恵ちゃんは「デジタルゥーゥはカ・シ・オッ」と歌う。 中学生気分は高まり胸躍る のでした。企業に踊らされる子供たちという図式は今も変わっていません。 が、それ さえもいい思い出になってしまうのですね。
 ようやく3月末、自転車に乗った書店のあるじからみんなの元に「中1時代」や「中 1コース」が届きます。 しかし、「中2時代」になるまで購読を継続するものは多くあ りません。 それは、芸能ネタであれば「明星」の方が、学習関係であれば塾や参考書 など、 それぞれの専門分野に欲求を求める方が、かゆい所に手が届く事を新13才達は 知ってしまうからです。 それはそのまま世の中の流れとなって今日に至るわけです。 “学年別雑誌廃刊相次ぐ”のニュースを知ってからもう4.5年経ったでしょうか。


高橋ひろ プロフィール

ポップス歌手。 東京オリンピックの年に生まれ、 その20年後にバンドを結成(92年散会)し音楽の方面 に矢印を向け、 さらにその20年後の今年、誕生40周年バンド結成20年記念のCDを制作予定。

 

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