宅配の朝日新聞に月２回（月曜日）「GLOBE」という別刷りの新聞が入ってくる。その８面は毎号話題の人物を紹介するページになっていて、その中に必ず「self-rating sheet（自己評価シート）」というのが載っている。自分にどんな力が備わっているのか。何が強みなのか。編集部が１０種類の「力」を登場人物に示して、自信がある順番に本人に並べてもらうという趣向だ。もちろん、自己評価だから登場人物によって毎回並ぶ順番が違う。きょうもそれを見ていたら、そうだおれだったらどういう順番になるだろうとつまらないことを考えてしまった。
サラリーマン時代に、管理職になった時こういうものを書かされたことがあり、そのときはずいぶんアホなことをやらせるものだと役員をばかにしたものだが、今回は自分からばかになってしまった。ま、単なるお遊びだけど、さて、並べてみたら下のようになった。
１、運。
２、体力。
３、決断力。
４、行動力。
５、持続力、忍耐力。
６、集中力。
７、独創力、ひらめき。
８、語学力。
９、分析力、洞察力。
１０、協調性。
もうちょいましになるかと思ったが、あんがい、つまらないことになってしまった。
いままでの来し方を振り返った時、何がいちばんの強みだったかと言えば、それはもう、あたしの場合、運と体力以外は考えられない。
昔から運だけで生きてきたような気がする。２０代の頃はロッククライミングや冬山に夢中になったが、一度も怪我をせずに済んだ。危ない目には何度かあったが、たまたま死なずに済んだ。友だちを山で二人亡くしているし、有名な登山家は何人も山で死んでいる。難しい登山をすれば必然的にそうなるのだけど、そうならなかったのはほんとにたまたま運がよかっただけだと思う。
出版社で編集の仕事につけたのもラッキーだった。初めはうまく文章が書けずにいつ会社を辞めようかと考えていたが、いつのまにか書けるようになって、それがはからずも自分の財産になってしまった。
いい妻にも当たった。悪妻は六十年の不作というけれど、わが妻は百年の豊作と言っていい。何を言おうが、何をしようが怒らないところがいい。大当たりである（こんなことは面と向かっては言えないが、敵はパソコンが使えないからこれを読まれる心配はないのだ）。
長崎に終の棲家を見つけられたのもついていた。運というのはいつも人との出会いで、いい人と出会って道が開けるものだと思うけど、私は節目節目でいつもいい人と出会ってここまで来れた。そう実感している。
頑丈な体力は、親からの贈り物だ。アイアンマンになれたのも能力ではなく体力があったからだし、田舎暮らしができたのも体力があったからだ。運を除けば、自慢できるのは体力だけと言ってもいい。これは昔からで、思い返せば小学校の通信簿は1年から6年まで体育だけはいつも５だったから、こういうものはいくら歳を重ねても変わらないのかもしれない。その体力がいま、急激に衰えている。トライアスロンのレースに出ている頃は、Tシャツ姿が似合っていると思っていたのでどこへ行っても胸を張って歩いたが、いまは情けないほど貧弱になってしまってスイミングプールへ行っても下を向いて歩いている。
決断力や行動力を上に持ってきたのは、別に自信があってのことではない。物事をあまり深く考えずにすぐ動いてしまうという性格で、浅慮で気が短いだけのこと。田舎暮らしをよく決断しましたねなどとしばしば言われるけれど、決断などしていない。なんとかなるだろうと思っただけなのだ。その分、愚図は嫌いである。のろまなやつを見ているといらいらしてくる。
持続力や忍耐力はあるのかないのかよくわからない。何をやっても10年くらいは続くが、それくらいで大体飽きてしまう。集中力も好きなことには集中するが、たいして興味のないものには集中なんかできない。小学校の通信簿にもいつも「落ち着きがない」と書かれていた。先生から白墨を投げられたことも何度かある。
独創力、ひらめきはどうか。編集者時代、企画力だけはあると自負していたが、最近はアタマを振るとカラカラと音がする。木工をしたり絵を描いたりしてもいつもありきたりで面白さが出ない。ジャズ・ピアノのソロ（アドリブ）を弾いても、なかなか自分らしさなど出ない。大抵はどこかで聴いた名曲のパクリになっている。
語学力は、100点満点で言えばせいぜい10点か。英語がしゃべれない。大学は仏文科を卒業したというのに、その形跡もまったく残っていない。
分析力、洞察力については思い当たるものが何もなく、協調性に至っては自信を持って「無い！」と断言できる。協調性を少しでも持ち合わせていたらサラリーマン時代に苦労などしなかったし、人にももう少し好かれていたかもしれない。我がまま、偏屈、頑固、強情、意固地は、68歳になってますます快進撃している。
