12 何でも捨てる、どこへでも捨てる

Q111:親切な人が多いというのは分かったんですが、おおらかな人というのは、具体的にはどんな。 A111:おおらかというのは、つまり、こせつかず、ゆったりとしている様子のことでしょ。たとえばね、うちで初めてメロンをつくったときのことなんだけど、もう明日あたり収穫しようかという矢先に病気にやられてね、全滅。ガックリしてたら、佐藤さんが来て「よかさ、この次はようできるよ」って言うの。米が虫にやられたときもそう。「よかって、来年はできる」。
 それ聞いて、すごいなあと思った。やられちゃったものは、いつまでくよくよしてたってしょうがないってことでしょ。駄目なものは駄目。気にしない。また来年やればいい。もう尊敬したね。そうか、と。


Q112:何回もそういう目に遭って来てるってこともあるんじゃないですか。 A112:そうなんだろうね。何に対しても、おうようだよね。いつだって「よかさ!」だもん。
 よかさと言えばね、もうひとつ「かんまんて!」という言葉があるのよ。「構わないよ」というような意味だけど、ある時、土木作業のアルバイトをしていてこういうことがあった。夕方5時になったので散らばっている道具を片づけて帰ろうとしたら、上司が「かんまんて、いっちょこうで」って言うの。「このままじゃ、まずいんじゃないですか」と言うと「よか!」。放って置いていいというんだよね。また明日来るんだからと。いいよねえ、これ。


Q113:それって、いい加減なだけなんじゃないんですか。 A113:いや、いい加減っていうと、イコールだらしないというふうに聞こえるけど、「いい、加減」というのは、「ちょうどいい」という意味よ。だから、これでいいのよ。 


Q114:なんか、よく分からないけど。 A114:ただね、確かにだらしないところもある。ゴミなんかどこへでも捨てちゃうから。
 町道の草払いをすると、空き缶、空き瓶がぞろぞろ出てくる。みんな車からのポイ捨て。ビールの空き缶なんかもあるからね。おいおいって言いたくなる。うちのミカン園は町道に面しているので大変よ。いつ行ってもゴミが捨ててある。で、しょうがないから大きなゴミ箱をつくって持って行こうとしてたら、仲良くしてる保育園の園長から「やめたほうがいい」と忠告された。「ゴミ捨て場になるとぞ」って。


Q115:人通りが少ないから。 A115:うん、それもあるけど、住んでる人自身も捨てる。ちょっと山の中に入れば、車でも、冷蔵庫でも、洗濯機でも、なんでも捨ててある。自分の山の中だから、だれも文句言えないのよ。車なんか、廃車にすれば持って行ってもらうのに金がかかるでしょ。だから、みんな自分の山に捨てちゃう。車はあっちにもこっちにも捨ててある。庭や畑に置いて、倉庫代わりに使っている人も多い。それが古くなれば、汚いじゃない。また、町に出て行っちゃう人もいて、そういう人は家までそのまま捨てて行っちゃうからね。廃屋もいっぱいある。おばあさんを捨てて行くのはまだ見たことないけど。


Q116:おばあさんを捨てちゃまずいでしょう。 A116:だってね、いまでこそ分別ゴミをする人も少しは出てきたけど、来た当初なんか、ごみ置き場を聞いても誰も知らないし、ゴミ置き場に持って行く人なんて誰もいなかったんだから。ゴミを捨てに行くのはうちだけ。みんな、自分の山に捨てるか、燃やしちゃうかだもん。ビニールだって何だっておかまいなし。この頃は少ーし良くなっては来たけどね。
 でも、この間なんか、びっくりした。港で真っ黒い煙が上がっているので火事かなと思って見に行ったら、廃船を燃やしているの。ガソリンぶっかけて。FRPの船だよ。これには驚いた。ダイオキシンなんて、どこの国のことって感じ。  


Q117:それは漁師の人。 A117:そう。おれも漁師だから、あまり言いたくないんだけどさ、はっきり言って、海を汚しているのは漁師自身だね。まあ、全部が全部じゃないけどさ。だって、ナマコ漁やウニ漁をするとき、箱眼鏡で海の底をのぞくじゃない。もう、港の近くなんか、ゴミだらけよ。瓶、缶はおろか、タイヤ、バッテリー、テレビまでなんでここにこんなものがってものまで。それに、見ていると、漁師自身、なんでも海に捨てるもん。たばこの吸い殻、ビニール袋。
 だってね、ナマコ漁の桁引き(底引き)をやると、ゴミがいっぱい入るんだけど、それをみんなまた海へ捨てちゃうんだぜ。うちなんか、ゴミを港まで持って来るんだけど、「なんでゴミまで持ってくると」って、あきれられるんだから。


Q118:粗大ゴミ収集の日とかはないんですか。 A118:あるよ。この頃は結構きちんとやるようにはなってきたけど、都会に比べれば意識的にはまだまだって感じだね。粗大ゴミ置き場に、タイヤとかバッテリーとかオートバイとか、捨てちゃいけないものが山ほど捨ててある。


Q119:困ったもんですね。 A119:いや、おれは困らない。


Q120:どうしてですか。 A120:粗大ゴミ置き場は、おれにとっては宝の山だもん。テレビ、ステレオ、オルガンから、トタン板、鉄パイプ、耕耘機まで、なんでも捨ててある。それを拾ってきて、修理してみんな使ってるもん。ありがたいよ。ちゃんと使えるんだから。