31 仕事はない

Q301:こんにちは。 A301:あれ、どうしたの。めずらしいね。


Q302:しばらくです。すっかりごぶさたして。 A302:ばったり、顔を見せなくなったから、どうしたかと思って心配してたんだよ。どこか、海外へでも行ってたの。


Q303:はい、ニューヨークのほうへ。 A303:ニューヨーク。そりゃまた。
 じゃあ、あの事件の時は。


Q304:はい。たまたま少し離れたところにいたので助かったんです。 A304:へー。でも、大変だったでしょう。


Q305:あれ以来、なんて言うか、人生観が変わっちゃいまして、サラリーマンやってるのが嫌になって。 A305:あれま、嫌になったって言ったって、簡単に辞めるわけにいかんでしょう。


Q306:こっちに、何か仕事はないでしょうかね。 A306:困ったね、これは。仕事なんてないよ、いまどき。
 失業率が5%だ6%だとかいって、史上最悪だって騒いでるでしょうに。田舎だって同じだよ。みんな、仕事がないって騒いでるもん。そう言えば、この前も、そういう話をしたんじゃなかったっけ。


Q307:そうですね。前から、田舎暮らしをしたいという夢を持ってて、できるなら金子さんのように、半農半漁の暮らしができたらと。 A307:うーん、気持ちは分からないではないけど…。
 百姓も、漁師も、金にはなんないよ。野菜でも、魚でも、とにかく安いから。とれることはとれるのよ。野菜だって大抵のものはできるし、魚だってまあまあ捕れる。でもね、売るとなったら、本当に馬鹿みたいな値段でしか売れないんだから。
 それでも、うちはさ、おれと母ちゃんだけだから、まだいいんだよ。おれたちは食えればいいと思ってるから。あなたのところは、小さい子供がいるじゃない。子供がいたら、金がかかるでしょう。教育費で。奥さんは何してるんだっけ。 


Q308:看護婦をしてます。 A308:あ、そうだったね。看護婦さんだったら、つぶしがきくか。
 でも、どういうわけなんだろう。おれのまわりには、どうも、そういう夫婦ばかり集まるな。いや、近くに仲良くしてる友人が二人いるんだけど、二人とも奥さんが看護婦をしてるのよ。旦那はどっちもブラブラしてる。うちも母ちゃんがヘルパーしてて、おれはブラブラしてるから、似たようなもんだけどさ。


Q309:病院はありますよね。 A309:うん、病院はあるよ。とりあえず、母ちゃんに働いてもらうか。でも、そういうやつばっかりになっちゃうなあ、この辺は。まずいよ、これは。ニッポンはどーなるんだ。


Q310:アルバイトでも何でもする覚悟は持ってるんですけど。 A310:そのアルバイトがないのよ。こっちへ来た当初は、いくらでもあったんだけどねえ。この頃は、さっぱり声もかからない。うちへよく遊びに来るG君なんか、この間、「そろそろ、本気で出稼ぎに行かなければならない感じになってきた」って言ってた。彼はフリーでコンピュータ関係の仕事をしてるんだけど、最近は、まったく仕事がなくなったって。