自給自足 半農半漁 晴耕雨読 の物語 |
自給自足で 自然に暮らす |
人生の楽園 |
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19 ヤマブキを飲む (秘密の味) 昔むかし、この辺の人たちは、どこの農家でも、ヤマブキというものつくっていたそうな。裏山に穴を掘って瓶(かめ)を埋め、雨に濡れないよう小屋がけをし、人目に触れぬよう、そうっとなにやら隠していたんだと。 悪ガキどもは、学校からの帰り道、麦畑から麦わらを1本引き抜き、裏山に忍び込んでは、その小屋に隠してある瓶に麦わらを差し込んでは、ちゅうちゅうと吸ったそうな。いつもつるんで一緒に帰る仲間も、交代でちゅうちゅうやったそうな。 それは甘くて、不思議な味がしたそうじゃが、それを飲むと、ふーらふら、ふーらふらして、田んぼに落っこちるやつもおったということじゃ。 |
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この辺では、それを、「ヤマブキ」と呼んでいたという。 内輪では「ドブ」と呼んでいたらしいが、人前で話すときは、「ヤマブキ」と使い分けた。 個人でつくることは禁止されていたので、みんな、裏山に隠していた。あっちの山にも、こっちの山にもあったという。税務署が、しょっちゅう調べに来たそうだ。それで、隠語を決めていた。 「ゆんべのドブはうまかったのう」では、バレてしまう。 「お前んとこのヤマブキはもう咲いたか」なら、分からない。 隠語は、集落によって違っていたそうだ。 山へいちいち汲みに行くのは面倒だという人は、物置の奥の方に隠し、布団やら毛布やらをかぶせて、知らぬ顔の半兵衛。ところが、ふわーっといい香り。嗅覚鋭い敵のなかには、いまでいう空港の麻薬犬並の鼻を持った輩もいたらしい。 こっちも負けてばかりいない。こんな猛者もいた。 瓶から汲んできたビンを持っていたバアサンのところへ敵が乱入。バアサン、持っていたビンを庭の石にぶつけて、「証拠はなかぞ」と言い張ったとか。 |
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いわゆる、これがドブロク。 いまでは、つくる人はいない。 飲んだことがある人に聞くと、それはそれは、うまいそうだ。 「これを飲んだら、市販の酒なんか、水みたいなもん」なんだそうだ。 「とろっとして、こくがあって、甘くて、一口飲むと、ふわーっと頬がほてってくる」とか。 ドブロクといえば、白い濁り酒かと思っていたら、この辺のヤマブキは、白く、あるいは琥珀色に透き通っているんだとか。 一度、ご対面してみたいと思っているのだが、つくる人はいないということで、夢は叶えられない。至極、残念である。 |
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つくり方は聞いているので、だいたい分かっているのだけれど、法律で禁止されていてはつくれない。 でも、もしつくったとしたら、楽しいだろうなあと思う。 ドブロクをつくるには、まず、麹がいる。 大分前の話だそうだが、友人がスーパーへ行って、「ドブロクをつくりたいので、麹が欲しい」と言ったら、「うちには、ドブロク用の麹は置いてません」と、断られたと言う。「いや、あるって聞いたから来たんだけど」とねばると、「ドブロク用の麹は置いてません」と、また言われた。そして、「甘酒用の麹なら置いてありますけど」と、ウインクされ、やっと事態が読み込めたと教えてくれた。それでいいのだ。「甘酒をつくりたいので、麹が欲しい」と言えばよかったのだ。 ぼくは、つくるつもりはないけど、もしつくったら、自分の名前をつけるな。 『数正宗』なんか、どうだろう。名前が「数栄」だからな。 シャレで、『本格密造酒』とか書いても、おもしろいな。 ラベルは、一流のイラストレーターにお願いする。そこまで凝りたい。 米は、もちろん、うちでとれた新米を使う。 自分でつくった米を仕込んでできた酒、さぞかしうまいだろうなと想像する。 仕込んでから、約1ヶ月で飲めるとか。だったら、正月にちょうど間に合うじゃないか。 うーん。 |