自給自足
  半農半漁
     晴耕雨読
       
物語
自給自足で
自然に暮らす
人生の楽園


   23 刺し網漁をする (春夏秋)
 漁業権を持たないときは、釣りしかできなかったが、漁業権を手に入れてからは、網が出来るようになった。ぼくは、早速、刺し網漁をすることにした。
 百姓の師匠、佐藤さんに、漁のほうでも師匠になってもらった。網は、出来合の物を買えば高いので、師匠に教わって自分でつくった。
 約100メートルの網を3つつなげて300メートル。
 刺し網漁の期間は、3月15日から11月30日までと決められている。
 ほとんど毎日のように、ぼくは漁に出た。いまもそれは続いている。
 刺し網漁は、夕方網を入れて、翌朝上げる。入れるのは一人でもできるが、上げるときは一人ではきついので、妻にも来てもらう。 
 
 春はコノシロ(コハダ)、グチ(イシモチ)がたくさん入る。それにモチ(イボダイ)、オコゼ、車エビ、白エビ、コチ、舌ビラメ。 
 夏は、シャコがたくさん。それにシマイサキ、キス、タチウオ、カマス、フカ、ハモ。
 秋になると大アジが入り出す。
 捕れた魚は、自分たちで食べる分を残して、あとの残った分は味彩市(直売所)へ出荷する。大漁の日もあれば、もちろん不漁の日もある。魚の値段は自分で決める。安くて新鮮なので、すぐに売れてしまう。
 車エビなどのように高く売れるものは、自分たちがたとえ食べたくても我慢して売る。これが普通の漁師。ぼくたちは違う。好きなものは、いくら高く売れるものでも、まず自分たちで食べる。そして、そうでないものは売る。これが基本姿勢。つまり、漁師の風上にもおけない駄目漁師なのだ。
 駄目漁師だから、失敗の数を数えたら両手でも足りない。
 初めの頃、網をどこへ入れてよいのか分からず適当に入れたら、そこが瀬の真上だったため、岩に網が引っかかって往生した。無理やり引き上げたら、網がびりびりに破けてしまった。
 網は一直線に入れずに、S字状を何回も描くようにして入れて行くのだが、慣れるまではこれがなかなかうまくできず、これも苦労した。網がからまって、身動きできなくなり、師匠に助けに来てもらったこともたびたびあった。ぼくたちが海の上で立ち往生しているのを、早く上がった師匠は家の庭から見ていて、「また、やってるな」と、飛んできてくれるのだ。 
  破けた網を繕う  300メートルも網を張って、上げてみたら魚が4〜5匹ということがたまにある。これがどういうわけか、たまたまテレビの取材のときとか、友人が来て一緒に網を上げたときなどに多く、「いつもはこうじゃないんだけど」という言い訳がむなしく、落ち込んでしまう。
 いままでのワースト記録はつい最近、東京から友人・牛尾が遊びに来て一緒に網を上げたら、エソ1匹、シャコ1匹というのがあった。
 逆に、捕れすぎて泣くこともある。夏場のシャコだ。
 シャコは、体中にトゲがあって網からはずしにくい。そのシャコが大量発生し、一晩に網全体にかかってしまうことがある。そうなると、はずすのに昼過ぎまでかかって、しかも暑い時期だからすぐ弱る。飯も食えず、出荷も出来ず、ただのくたびれもうけ。人によっては、網ごと港に干してカラカラにし、4〜5日たって足で踏んづけてはずすなんて荒技を使う人もいる。捕れすぎても困るのだ。