自給自足
  半農半漁
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物語
自給自足で
自然に暮らす
人生の楽園


       32 竹を細工する (花瓶など)
 ぼくの友人に、掃除、洗濯、料理なんでもやってしまう男がいる。なにひとつやらないぼくから見ると、「こいつ、なに考えてんだろう」と、その了見が理解できないが、女性にはモテる。キャンプや花見なんかのとき、俄然張り切って働く。まあ、便利ではあるが、モテるのが悔しい。「一家に一人、こういう男の人がいると助かるわ」などと言われて、ニヤニヤしている。
 なんでも出来ると言えば、竹も便利だ。竹林から竹を1本切ってくれば、いろいろなものが出来る。
                                          
    竹は、切るのも割るのも易しい。ノコギリやナタがあれば、誰にでも簡単に細工できる。切る時期さえ間違えなければ、耐久性もある。
 「木六竹八(きろくたけはち)」という言葉があって、木は6月、竹は8月に切ると、長持ちすると言われている。田舎へ来て、何人かの人からそう教わった。ただし、これは旧暦で言っているので、いまの暦なら、木七竹九ということになるが。
 もうひとつ、「新しい竹は細工には向かない」とも教えられた。水分が多いため、すぐ腐ってしまうのだそうだ。
 何も知らないぼくは、5月頃の青々したきれいな新しい竹を切ってきて、花瓶やら、箸入れやらをつくって、「どうだ!」と悦に入っていて、近所の人に笑われた。
 その通り、それらはたちまちカビがはえ、虫がついてしまった。
 写真の花瓶や自在かぎ、箸入れなどが焦げ茶色になっているのは、形をつくってから、炭焼きの煙にかけた色を付けたもの。これは、ただ色を付けたということでなく、熱い煙にいぶして油を抜いているのだ。水分と油を抜いておけば、何年でももつというわけ。
 炭焼きの合間に、ぼくはそうやっていろいろなものをつくるのだが、家に置いておくと、遊びに来た友人がみんな、欲しそうな目で、「いいな」と言うので、「いいよ」と言うしかなく、いくらつくってもなくなってしまう。
 料理の器や箸、庭での流しソーメン用の装置、あるいは、正月の門松など一時的に使用するものなら、もちろん、そこまでする必要はなく、むしろ新しい青い竹のほうが見た目にもよい。
 竹は畑でも、漁でも使い道が多いので、まさに万能選手。畑に突き刺せば野菜のツルをはわせられるし、田んぼの稲掛けや、ウニ採り、ナマコ掛けなどの漁具もつくれる。イカ釣り用の竿も竹でつくる。雨樋や、露天風呂の囲いなども、ぼくは竹でこしらえた。竹は、竹藪にいくらでもはえてくるから、一言断れば、誰も切るなとは言わない。ただでなんでもつくれるのだ。
      竹を切るのは簡単だと言ったけれど、竹を根っこから掘り出すとなると、これは大変。竹は根が張り巡っているので、深く掘らなければならない。太い竹になると、妻と二人で1本掘り出すのに小一時間はゆうにかかる。根っこには土が食い込んでいるので、これを取り除くのも容易ではない。チェーンソーでもノコギリでもノミでも、イッパツでオシャカになってしまう。ただでなんでもつくれると言ったけれど、根っこを活かすものをつくると、結構高いものについてしまう。だから、簡単に、「これ、いいな」と言わないで欲しい。ほんとは、持って行かれたあと、泣いてるんだよ。う、う…。