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4 炭焼き日記 (炭焼き小屋から)
 家を新築するに当たって、暖房は何にしようか迷った。初めは薪ストーブを考えたが、カタログを取り寄せてすぐあきらめた。値段が高すぎる。
 囲炉裏と掘り炬燵ならどうだ。。燃料は炭。そうだ、炭焼きをしよう。
 近所の人に聞くと、隣町に炭を焼いてる人がいると教えてくれた。
 笹野孝行さん。炭焼き師。押し掛けて、その場で弟子志願。
 長崎へ移住して1ヶ月。まだ、家も建っていない。土地を造成中。その造成業者が気を利かせて、庭の片隅に、炭窯(石窯)をつくってくれた。
 初めは見学と手伝い。車で1時間。連日通う。
 山から木を切り出し、トラックで炭窯まで運び、それを割って窯に詰め、火入れ、窯焚き、窯出し、さらにできあがった炭を切り、袋に詰める。
 この手伝い(勉強)を2年。そして、平成8年6月、ついに独り立ち。
 炭焼きとはどんなものか。紹介しよう。
 以下は、平成11年春の「我が炭焼き日記」より。
 3月31日(水)晴れ。
 午前9時〜午後3時、大瀬戸町幸物郷で木の『切り出し』。師匠の笹野さんが世話してくれた山。雑木は少なく樫が多い。山で食べる弁当は本当にうまい。君子がヘルパーへ行くので3時で切り上げる。
 ☆切り出しのポイント
 1、木は同じ場所に切り倒す(運び出す道を開き、切りくずを片づける手間をはぶく)。
 2、できるだけ下部を切る(無駄をなくす。歩きやすくする)。
 3、4尺(120センチ)に刻む。

 4月1日(木)晴れ。
 9時〜3時半、君子と二人で幸物郷へ。樫を切り倒す。太い樫を傾斜と反対側へ倒すとき、1回ミスをしてチェーンソーが挟まれ苦労する。
 (4月2日は雨)

 4月3日(土)晴れ。
 8時半〜12時、樫を切る。弟子の大八木夫妻が加勢に来る。君子にコドリをしてもらい、大八木夫妻には前に切っておいた樫を下の道まで放り出してもらう。樫は十分と見て昼で切り上げる。県民の森で昼食後、神浦へ。笹野夫妻と6名で花見。満開。その後、借りることになっている中尾さんの窯を見に行く。まだ使用中。
 (4月4日は窯が開かないので待機)。
 
 4月5日(月)曇り。
 9時〜5時、切り倒してあった樫を君子と二人で整理し、敷き木と薪を切る。午後から敷き木1台分、薪1台分を軽トラで窯まで運ぶ。
 4月6日(火)曇り。
 9時〜5時、樫を窯まで運ぶ。軽トラ4台分。うち2台分は『仕込み』をする。曲がっている樫が多いので苦労するが、木はもらっている手前、ぜいたくは言えない。煙突付近はよい炭が出るので、腕くらいの太さのよい樫を置く。
 ☆仕込みのポイント
 1、炭材をまっすぐに立てる(量がたくさん入る)
 2、根元(太いほう)を上にして立てる(炭材の中の水分が下に抜けやすくよい炭が焼ける)。
 3、樫は奥に並べ、雑木は手前に置く(奥はよい炭が焼け、中央は割れたりしてよい炭ができにくい。手前は燃えてしまう)。
 4、差し木はびっしり詰める。天井と炭材の間の隙間をできるだけなくす。
 5、敷き木はびっしり敷く(窯底はぬれるので、炭材が底に接しているとその部分が未炭化の炭になる)。
 6、中尾さんの窯は水が出やすいので、敷き木は2段に敷く。
 7、作業口付近は太い雑木を立てて壁をつくる。
 ★仕込む前に。
 1、まず煙突を立てる。
 2、つぎに煙突の真下の窯底をきれいにする。
  この手順を守ること。

 4月7日(水)晴れ。
 9時〜4時、仕込み。全体の4分の3ほど仕込む。江頭、大八木両氏が加勢に来てくれる。助かる。軽トラ3台分を運び下ろす。君子はヘルパー。あとは太い樫と雑木を入れるだけ。笹野さんに、くさびとハンマーを借りる。4月8日(木)晴れ。
 
 4月8日(木)晴れ。
 9時〜6時、仕込み完了。火入れ。枯れ木に火をつけ『むらし』開始。軽トラ1回分、差し木と雑木を運ぶが少し足りずもう1回取りに行く。3時に仕込みを終え、取り出し口のふたを閉める。仕込みの途中、腰を痛める。4時、火をつける。オキができるまで薪をくべ、最後に太い薪4本とくず炭を4回放り込み、ふたをする。土を練って隙間を埋め、少しだけ隙間をあけ、カンペイ(細い木の枝)を煙突いっぱいに並べ作業終了。日は細々と燃え続け翌朝までむらし続ける。6時に帰る。

 4月9日(金)雨。10時〜6時、むらし。40〜50分おきくらいに終日、薪をくべ続ける。腰痛。車の中で読書。5時半、薪をいっぱい詰め込み焚き口にふたをし、昨日同様ほんの少しだけ隙間をあけて、あとは泥で固める。煙突にカンペイを4本並べ、少し隙間をあけてふさぐ。中尾さんがきて、「温度が多分40度くらいあるから大丈夫」と言う。明日の分の薪が足りない。
 4月10日(土)雨、強風。
 8時〜5時半、『焚き込み』。8時に山へ薪を切りに行く。8時に笹野さんがカンペイを取り除き、焚き込みを始めてくれる。60度くらいあったと言う。9時に窯へ行く。9時20分65度。10時20分71度。まだ煙の匂いがツーンとこないから差し木は燃えていない。10時45分、「煙が長く続くようになりクサくなったから差し木が燃えだした」と中尾さん。11時20分76度。11時30分、大八木さんが来て、5時まで火の番をしてくれる。12時77度。1時79度。2時80度。木酢液を採る。5時、焚き口のふたを閉める。握り拳が入るくらいの隙間をあけておく。5時半帰る。腰痛。
 ☆焚き込みのポイント
 1、煙突の温度が50〜65度Cなら焚き込みを始めてよい。
 2、カンペイを取り除き、薪をどんどんくべ80度に達するまで燃やし続ける。
 3、80度になってから2〜4時間燃やし続ける。
 4、煙の匂いが鼻にツンとくるようになったら焚き口にふたをする。薪をいっぱい詰めて閉めるのだが、その際手が入るくらい(12センチ四方くらい)の穴(アラシという)をあけておく。
 5、穴を大きくしすぎると荒くたけて炭が崩れ、小さすぎるとススがついたような炭になってしまう。
 6、翌朝、煙の色を見て、向こう側が透けて見えないようなら、よく燃えている。もし透けて見えるようなら、燃えていないことになる。

 4月11日(日)晴れ、強風。
 8時〜9時、窯を見に行く。順調に燃え、80度を保つ。煙も濃い。防風ネットを張る。アラシに小石を2個置き、9時に帰る。10時テレビ長崎で、金子数栄主演『ウイ・ラブ九州・ビックリ炭パワー』を放映。
 ☆ポイント
 この日の朝、煙突の温度が70度くらいに下がっていたら、『なぐれた』ことになる。煙が透けて見えたり、匂いが鼻にツンと来ない場合も同様。その時はアラシぐちから細い薪を3〜4本ずつくべて、追い焚きをしなければならない。急に温度を上げないように慎重に。

 4月13日(火)曇り。
 木酢液を採りに行く。ペットボトルに4本採れる。順調。
 
 4月14日(水)晴れ。
 朝、笹野さんから電話。「夕方、燃えぼそりになりそうだから来てみたら」。5時、窯へ行く。青い煙が結構出ている。「この分では、止まるのは明日の朝くらいになるだろう」と中尾さん。中尾さんと笹野さんにビール1ケース(大びん20本入り)お礼。6時、帰る。
 ☆ポイント
 白い煙の量が極端に少なくなることを『燃えぼそり』という。それを過ぎると白い煙に青が少し混じって煙が多くなる。これを『大燃え』という。時間が経つにつれ青が濃くなる。その後だんだん薄くなって行く。この大燃え過ぎが竹をいぶすのにいちばんいい。
4月15日(木)曇り。
 6時45分、窯へ行く。煙が止まっている。青い煙も見えない。煙突の内側が白くなっている。マッチの軸を煙突に置いてみると14秒で火がつく。アラシをふさぎ、作業口の下をあけ、『ねらし』をかける。真っ赤な火がすぐ近くに見える。「樫が多かったからな」と中尾さん。泥を水で溶いてドロドロにし、8時まで『めぬり』をする。まわりを片づけ掃除をして9時、煙突をはずし、石を置き土をかぶせて煙突の穴をふさぐ。9時半、終了。
 ☆ねらしのポイント
 1、焚き込みの翌日から3〜4日おいて(なか3〜4日)、煙の色が白から青色に変わり、その青色がまったく出なくなったら、ねらしをかける。作業口の最下部を少しだけ開けるのだ。このとき、アラシぐちは完全に密閉する。
 2、ねらしをかける判断は、青い煙が出なくなり、煙突の内側が白くなり、煙突にマッチをかざして10秒くらいで火がつけばよしと判断する。
 3、ねらしをかけると、煙突から青い煙が出ることがある。ねらしをかけて約2時間後に完全密封する。

 4月25日(日)晴れ。
 8時〜3時、『窯だし』。笹野さん、中尾さん、大八木夫妻、江頭、牟田、スチーブンも来る。「よか炭のできとるばい」と中尾さん。良質の樫炭が約40俵600kgとれる。今回は何のトラブルもなく、まずまずの炭を焼くことができた。みんなに感謝。