自給自足・半農半漁・晴耕雨読の物語
自給自足で


40 ミカンのこと (聞いた話)
うちの敷地に隣接するよそのミカン園のミカンが、
いま、鈴なりになっている。
温州ミカンだから、もう、とっくに収穫の時期は
過ぎている。
過ぎているのに収穫しないのは、
収穫を放棄したからだ。
ミカンは、木に成らせたままにしておくと、
木が弱ってしまう。
だから、仮に大豊作で値段が安いからといっても、
採るだけは採ってしまわなければいけない。
安くて出荷するだけ損と思ったら、
採って、山へ捨てるのだ。
その収穫をやめたということは、
来シーズンからのミカンづくりそのものを
放棄したということになる。
そうやって、ことしもまたひとつ、
ミカン園が消えた。
体をこわしたから、もう、やらないのだという。
ミカンは重いから、高齢者にはつらい。
コンテナ1箱20kgは、若い?ぼくでもきつい。
昨年も、夫婦でやっていた片方が病に倒れ、
ひとりではとてもやりきれないと言ってやめた人がいる。
いま、ミカンをつくっている人は、高齢者ばかり。
「あと数年もすれば」と想像するのが怖い。
「それにしても」とつくづく思う。
ミカンは、いま、安すぎる。
最近、こんな話を聞いた。
手広くミカンをつくっている知人が、町の農産物のお祭りで
金賞をとった。
その友人が嘆く。
「ここ5年間で、なんとか黒字になったのは1回だけ。
あとは毎年、赤字。親父は年金をもらっているけど、
その年金を見たことがない。素通りでミカンの農薬代と
肥料代に回ってしまうから」。
金賞に輝くほどのミカンをつくって、赤字とは。
これも聞いた話。
ぼくは産直が主だから、ほかの人のことは知らないが、
大きな組織に加盟している人は、(最近、最新式の
選果機を購入したので)その選果代その他諸々で、
8割を負担しているのだと言う。
8パーセントではない。80パーセント。
仮に単価1kg100円とすれば、自分の取り分は20円。
そこからさらに、農薬代や肥料代。
「嘘でしょ」と聞き返したが、嘘ではないらしい。
「ヒエーッ!」
近頃、ぼくは、こんなに驚いたことはない。