自給自足
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人生の楽園


外国からのお客さんも喜ぶ 5 囲炉裏と掘り炬燵 (自分で焼いた炭)
 ぼくの家には、応接間がない。
 だから、お客さんが来ると、大抵の場合、庭のせんだんの木の下に置いた手づくりのテーブルで応対する。家に上がってもらうときは、居間へ案内する。
 玄関から廊下を通って居間に入ると、初めてのお客さんはみな、「うわー」とか「ひゃー」とか小さな歓声を上げて、目を丸くする。囲炉裏が切ってあるのを目にするからだ。
 かつて、囲炉裏は、煮炊き、暖房、団らんなどになくてはならない存在だった。昔は照明の役目も果たしたが、いまは電気がある。
 ぼくが設計した囲炉裏は、長方形で、畳一枚分の大きさ。囲炉裏を囲んで6枚の座布団が置いてある。知らない人のために、聞きかじりのうんちくを傾けると、家長が座る場所を「横座」といい、その右横の出入り口に近い場所を「客座」、その反対側、横座の左側を「カカザ」という。読んで字のごとし。横座の正面は「木尻」といって、ここは雇い人の場所。
 ぼくは、一応、(名前だけは)家長なので、普段、横座に座っている。雇い人はいないので、木尻には花が置いてある。お客が多いときは、花を片づけて客座にするが、そこが雇い人の席であることを知る客人はほとんどいないから構やしない。
 天井からは、自在かぎが下がっている。これも手づくり。自信作なので、ほめると家長は喜ぶ。
   
 囲炉裏では、自分で焼いた炭を使う。
 よほど寒くなければ、暖房はこれで十分。寒いときは、その横につくってある掘り炬燵に移る。掘り炬燵の燃料も炭。掘り炬燵で飲む酒は、囲炉裏で飲む酒とはまたひとつ趣が変わって、なかなか。
 石油ストーブや、電気炬燵は、扱いは簡単だけど、この趣は出ない。雪の降る日、友人が訪ねてきて、掘り炬燵で昼間から熱燗の雪見酒。「いいですねえ」。
 海に浮かぶ寒月を眺めながら、囲炉裏の鉄鍋をつついて、いただきものの大吟醸。妻と「やめられませんね」。
 
 焼いた炭は、自分たちだけでは使い切れないので、直売所へ出荷する。最近は直接買いに来る人も多い。ここ数年、炭は再び見直されブームになっていて、需要は多い。本格樫炭なので評判は上々。わが家の貴重な収入源にもなっている。
 一般に、炭には「樫炭」と、「雑炭」があって、かたい樫の木を焼いた樫炭は、火持ちがよいので上質、樫以外の柔らかい木を焼いた雑炭は、燃えが早いので質は落ちる。これは使い比べてみれば、誰にでもすぐ分かる。当然、値段も違う。
 炭は、冬の商品と思われがちだが、夏も結構売れる。バーベキューに使うからだ。しかし、樫炭はバーベキューに使うにはもったいなく、わが家では、屋外では雑炭を使っている。
 炭は、燃料としてだけでなく、ほかにもさまざまな使い道がある。部屋の片隅に飾っておけば除湿効果があるので、わが家では、大きな「飾り炭」を焼いて、各部屋に置いてある。
 消臭効果もあるので、冷蔵庫や、押入、タンスにも入れてある。もちろん、トイレや玄関にも。最近はテレビなどでも紹介されているが、炊飯器に入れるのもいい。ご飯がおいしく炊ける。
 また、テレビや電子レンジなどから発生する不要な電磁波を遮蔽するのにも効果があると言われているので、電気製品の近くにも置いてある。
 浄水にもいい。炭を入れたタンクに水道の水を通して飲むと、臭さが消える。ウイスキーの水割りや、コーヒーなどは、これに限る。
 樫炭は堅いので、風鈴などをつくってもおもしろい。くず炭は、植木鉢や畑にまく。
 そしてもうひとつ、炭を焼く際に採れる木酢液。これをお風呂にキャップ1杯入れて入浴すると、アトピーに効くとして最近、話題になっている。
 防虫効果もあるので、わが家では、農薬代わりに重宝している。炭は、スミから隅まで無駄がない。