NEWS LETTER
Vol.12
 平成13年7月12日発行

おじさんの台所
 『おじいさんの台所』(文春文庫)という本をご存知だろうか。
 著者は、佐橋慶女さん。明治生まれの頑固なお父さんが、83歳で独り暮らしを始めたはいいが、炊事洗濯まるで未経験。そのお父さんを特訓し、奮闘自立していく様子を書いた感動の記録。日本エッセイスト・クラブ賞を受賞して話題になったので、お読みになった方も多いと思うが、その佐橋さんとアタクシ、何を隠そう、実はお友だちなんだよね。
 そして、縁は異なもの、前号で紹介した田口さんと佐橋さんは、アタクシのあずかり知らぬところで、なんと仲良しだったのだ。類は友を呼ぶと言っちゃあ失礼だが、合縁奇縁。世の中、これだからおもしろい。昨年夏、この二人が揃って東京から遊びに来たもんだから、そりゃもう大変だったんです。なにせ、二人ともスーパー猛女だから。
 ちなみに、佐橋さんは、日本で初めての女性だけの会社アイデアバンクを設立。主婦の社会参加をめざすバンク・オブ・コンサルン、日本の生活文化を伝承するための「伝承塾」をつくるなど多彩な活動。得度して浄土宗少僧都でもあるんだな。
 どうしておれは、こういう怖いおばさんとばかり仲良くなってしまうんだろう。
 ま、そんなこたどうでもいいんだけど、いま、アタクシ父ちゃんは、「おじさんの台所」を書くはめになった。今回はその奮闘日記。
 炊事洗濯まるでダメ男が、ひとりで放り出されてしまったのだ。母ちゃんに逃げられたんだろうってか? ま、そんなとこ。 
炊事洗濯初体験
 自慢じゃないが、父ちゃん、千葉の高浜にいたときは「高浜の天皇」、いま長崎の尾戸では「尾戸の天皇」と呼ばれてる。天皇って言ったって、当たり前だけどエライからじゃない。何もしないからだ。炊事洗濯、掃除、ゴミ捨て、家事一切したことがない。男子厨房に入るべからず。「おーい、新聞」「おーい、お茶」。これで30数年やってきた。へっ、こちとら筋金入りの亭主関白だ。で、逃げられた最初の晩。
 
 7月8日(日)
 <夕食>残り物の自家製パンと蜂蜜、残り物のスープ、自家製桃ジュース。
 寂しく夜は更ける。12時までメールの返事書き。
 
 7月9日(月)曇り。
 <朝食>残り物のご飯、梅干し、めんたい、お茶、牛乳。
 ニワトリ、ヤギ、犬の世話(餌、水やりと掃除)。食器洗い。ゴミ捨て。メールの返事書き。
 <昼食>インスタントラーメン、具なし、甘夏。
 梅畑の草払い。梅干しづくり。夕方ジョギング。
 <夕食>ビール、ウイスキー、インスタント餃子、キムチ。
 メールの返事書き。
 
 7月10日(火)晴れ。
 <朝食>残り物のパン、バター、目玉焼き、ウインナー、牛乳、紅茶。
 ニワトリ、ヤギ、犬の世話。洗濯。花の水やり。
 則之(佐藤さんの長男)がバイクの修理に来てくれる。ピアノ教室休む。
 佐世保からテレビを見たからと見学者。
 <昼飯>インスタントラーメン、具なし、おかず無し。
 バイク修理。梅干しづくり。
 <夕食>ビール、ウイスキー、チーズ、モロキュウ、トマト、ウインナー、キムチ。
 メールの返事書き。
 
 7月11日(水)雨。
 <朝食>ご飯、納豆、めんたい、高菜漬け、生卵、お茶。
 ニワトリ、ヤギ、犬の世話。メールの返事書き。読書。
 <昼食>ご飯、めんたい、キムチ、高菜漬け、メロン。
 ホームページ更新。野菜の収穫。田んぼの見回り。スーパーへ買い物(おかず類)。
 <夕食>焼酎、さつま揚げ、マカロニサラダ、トマト。
 ホームページ更新。読書。 
なんだこりゃ
 初体験は、戸惑いもあるが、驚きや発見があるからおもしろい。感動もある。
 3日間で、父ちゃんは「ダメ男」を返上した。やればできる。もう、怖いものはない。
 まず、冷蔵庫が使えるようになった。いままでは、ウイスキー用の氷を出すことと、ビールのありかしか知らなかった。氷の作り方が分かった。これは大きい。でも、冷凍庫の食材はどうすればいいんだ。カチカチに凍っている。お湯をかけるのか。
 米のありかが分かった。ご飯が炊けた。ちゃんと炊けた。目盛りが書いてあるじゃん。
 でも、みそ汁はどうすればいいんだ。お茶で我慢。
 インスタント餃子も、箱に作り方が書いてある。でも、真っ黒に焦げたのはなぜだ。責任者、出てこい。
 初めてのお使い。スーパーで、一人で買い物ができた。でも、カゴを持って歩くのはかなり恥ずかしい。「かわいそうに、あの人、きっと奥さんに逃げられたのよ」と向こうで言われてるような気がする。インスタントみそ汁、納豆、ハム、ちくわ、食パンなど、そのまま食べられるものを買う。一人じゃ、自給自足はむずかしい。
 洗濯機も使えた。乾燥機にはたまげた。ほとんど乾いてるじゃん。出がけに母ちゃんが干していった洗濯物を取り入れたら、ブラジャーがあった。手に取ってしげしげと眺めてみたが、なんとも不思議な代物だった。体に着けてみたりはしなかった。それをやっちゃあアブナイからな。
 コラッ、掃除機は、もう少し分かりやすく作れ。
特上の寿司
 娘のお産介護で茅ヶ崎へ行ってる母ちゃんから、手紙が届いた。
「独身生活はいかがですか。きょうは、お父さんの大好物の特上の寿司をごちそうになりました。大トロに、イクラ、ウニ、お父さんに食べさせたいなあと思いながら、ペロッとたいらげました。中略。あと1週間、家事と料理の腕をしっかり磨いておいてください」
 ふざけんな!