平成19年4月3日 Vol 153
よかさ!
女性の水着。
 雨の日は漁に出たくない。野良仕事もしたくない。
 だから、雨が降るとこれ幸いと家の中でピアノやサックスの練習をしたり、図書館から借りてきた本を読んだりして過ごすようにしている。もうひとつの趣味の平日大工もするけど、いまは畑の小屋づくりをしているので、雨の日はできない。それで雨が続いたりすると時間をもてあまし、困ったことになる。そんなとき、思い出したようにスイミングプールへ行こうかという気分になる。
 その日も、そんな状況だったので、「泳ぎに行くか」となって、佐世保のスイミングプールへ出かけたのだった。そこは風呂が温泉でサウナもあるので、遠いけれど苦にならず、ときどき出かける二人のお気に入りのスポットになっている。
 午後4時に家を出て、現地へ着いたのが5時ちょうど。「わたしは佐世保でちょっと買い物をしてきたいのでこれから行って、6時半までにはここへ帰って来ます。わたしもちょっと泳ぎたいから、7時10分に出口で会うようにしましょう」と君子さんがいうので、「じゃあ」と別れて、父ちゃんはもらった1000円を手に施設へ入った。入館料は600円。
 で、ロッカールームで裸になり、水着の入った持参のビニール袋を開いて、「あれ?」と思う。白いタオルを入れてきたはずなのに、なぜか黄色いタオルが入っている。おかしなこともあるもんだと首をかしげながら水着を取り出して、こんどはホントにビックリ。グレーの水着のはずが黒の水着に代わっている。しかも、なにやら肌色のクラゲのごときものまで。
 「あらら…」(おれの水着じゃない!)
 車から降りるとき、ビニール袋を取り違えたのだ。
 
 ここだけの話、女性の水着姿を眺めるのは(若い女性のことだけど)、スイミングプールでのもうひとつの密かな楽しみではある。しかし、自分で女性の水着を着るのはいかがなものか。こういうことはそうそう経験できるものではないから、着てみるか。いや、どうしよう。
 二人ともケイタイは持たないから連絡はとれないし、かといって1時間半も何もしないで待つのもアホらしい。
 (参ったな。いや待てよ、最近は男でもロングスーツの水着を着てるから、これでもいいか。北島みたいでかっこいいかも。いや、男用のロングスーツは、こんなに股が切れ上がってないぞ。背中もこんなに開いてない。だいいち、胸がぷかぷかしないか。
 変な目で見られたらどうしよう。そうだ、女になりきっちゃえばいいんだ。でもバレたら警察を呼ばれるかも知れない。バレないかも知れないけど、アタマは坊主だし、ひげも生えてるからなあ、やっぱしバレるか。ああ、どうしよう。
 いっそのこと、いきなりパッと飛び出して、大きな声で、「変〜身!」とやってみるか。
 あのひと変態よと指を差されるだろうなあ。騒がれて新聞に名前が出されちゃったら困るなあ。長崎市琴海尾戸町の金子数栄・64歳、女性の水着を着て逮捕。警察では詳しい動機を追及している…、なんてなったら大変だ。でも、やっぱしちょっと着てみたい気もするし、あれ、もしかしておれってオカマのケがあったのか。いや、違う違う。そんなことはない。うーん、そうだ、聞いてみよう)
 「あの、すみません。ちょっとつかぬ事を聞きますが、男が女性用の水着を着て泳いだら、まずいっすか」
 「はっ?」
 「あの、これなんだけど」
 「えっ、それは…」
 「いや、これは盗んだもんじゃなくて、うちの女房のなんだけどさ。着ちゃいけないっていう規則とかあんのかなあ」
 「あ、ちょっと待ってください。わたしアルバイトなので…、上司に聞いてきます」
 「いや、そんな大げさにしたくないんだけどさ」
 「でも…」
 「そういう前例とかはないの?」
 「聞いたことないですぅ」
 「あ、そう。じゃどうしたらいいかな」
 「貸し水着がありますけど」
 「なんだよ、そうか。早く言ってよ。それ借りよう。いくら?」
 「300円です」

 というわけで、やれやれ、一件落着。これ、ちなみに4月1日の話なんだけど、エイプリル・フールのウソじゃないからね。ホントよ。