平成14年11月1日 Vol 64
パリ
 10月24日(木)。ツェルマット〜ジュネーブ〜パリ。
 ジュネーブから、フランスが誇る新幹線TGVに乗って雨の降るパリへ入る。君子さん憧れのパリ。
 16時25分、リヨン駅に到着。満員の地下鉄に乗ってサンミシェルへ。心当たりのホテルを訪ね歩くが、どこも満杯。雨の中、びしょぬれになって歩き続ける。新幹線では飲み物しか売ってなくて昼食を食いはぐれ、夕闇迫るゴミだらけの裏町、雑踏の中、空腹と寒さで途方に暮れてトボトボと。そして、やっと、「ウイ!」と言ってくれたカルチェ・ラタンの3つ星ホテル。ほんと、一時はどうなるかと思ったぜ。 
コンプレ!
 10月25日(金)。雨。
 朝、延泊を頼んだら、「ノン!」。今夜は、「コンプレ!(満室)」。
 で、朝からまたホテル探し。幸い、隣の2つ星ホテルに飛び込むと、「今夜だけなら空いている」というので、とにかく、「お願いします」と頼み込んで、荷物を預かってもらう。「明日は明日の風が吹く…」。
 きょうの予定は、まずはオルセー美術館。ところが、行ってびっくり、長蛇の列。雨の中、40分並んでやっと館内へ。おなじみの印象派の作品群に大喜びの君子さん。父ちゃんは、印象派にはあまり興味なし。
 ルーヴル美術館は、午後3時から割り引き料金になるというので、カフェでビール&ランチをとり、時間つぶしに凱旋門へ。シャンゼリゼ大通りを手を組んで歩く。「結婚して初めてだね」と君子さん。仏頂面の父ちゃん。
 ルーヴルでは、「サモトラケのニケ」と、「モナ・リザ」、「ミロのヴィーナス」を駆け足で見て歩く。君子さんは初めてなので感動していたが、父ちゃんは2度目なので感動なし。それより、人間ウォッチングのほうが楽しい。「どうして若いガイジン娘のケツはあんなにプリプリしてんだ。よくジーパンがはち切れねぇもんだなぁ」。
 ルーヴルを出たら、雨が上がっていた。「もう、帰ろうよ」と父ちゃん。「エッフェル塔に行きたい」と君子さん。
 優しい父ちゃん、元気な君子さん。エッフェル塔をバックに記念写真を撮ってあげる。
 帰りに中華の店を見つけ、餃子、春巻き、酢豚、炒飯、肉団子、それにビールとウイスキーをテイクアウト。ホテルに帰ってゴーカな夕食。帰る途中、父ちゃん、サイフを拾う。皮の小銭入れだけど20ユーロ29セント入っていた。フランスでは、こういう場合どうするのだろう。分からないのでそのまま頂くことにする。晩飯代が浮いた。  
踏んじゃった、糞じゃった。
 10月26日(土)。晴れ。
 6時起床。ホテルをチェックアウト。93ユーロ。高い3つ星より安い2つ星のほうがいいホテルだった。で、また朝から今夜のホテル探し。
 「アヴェ ヴー ユヌ シャンブル リーブル プール ス ソワール?」(今晩、空き部屋はありますか)。父ちゃん、このくらいのフランス語はしゃべれる。なにせ、仏文科卒業だからな。
 でも、ソルボンヌ大学の前、4カ所当たるが全部断られる。人相が悪いからじゃない。いや、そうかなあ。とにかくどこも満室だという。10月のパリはそうなのだとガイドブックに確か書いてはあったが、これほどとは思わなかった。5軒目でやっと2つ星にもぐり込む。やれやれ、パリは朝から疲れるぞ。
 カルムの朝市を見て回る。野菜に魚、チーズや花が色とりどり。フォアグラを買う。
 地下鉄でヴァンブの蚤の市へ行く。がらくたがいっぱい出ていて面白い。
 君子さんが、犬の糞を踏んづける。べったり、グッチャリ、靴の底。パリは、どこへ行っても犬の糞だらけなのだ。君子さんの泣きそうな顔がおかしい。「そばへ来るなよ」。父ちゃん、逃げる。
 地下鉄でモンマルトルへ。サクレクール寺院の石段で、ドン・コルレオーネ一家(?)が結婚式をやっていた。賑やかな楽団と涙の花嫁、髭のゴッドファーザーがピタリ決まっていた。
 また地下鉄にのって、こんどはサン・ジェルマン・デ・プレへ出て、「カフェ・ドゥ・フロール」でビールを飲む。
 カフェ・ドゥ・フロールと言えばあなた、サルトルですよ。文学者や芸術家が集まって哲学論に花を咲かせたあの有名な文学カフェ。存在とは何か。実存主義とは。パリへ来たら、一度はここのオープンテラスに座らなくっちゃ。エッフェル塔では写真を撮らなかった父ちゃん、ここでは記念写真を撮ってもらう。「なんでこんなところがいいのよ」と君子さん。何も分かっちゃいない。「存在がどうしたのよ」。
 「それより早くお土産を買いに行きましょうよ」とせかされて、ショッピング。そしてパリ最後の夜だというので、ディナーはレストランでおフランス料理。ところがこれが当てはずれの見かけ倒し。口直しに近くのバーでジャック・ダニエルを引っかけてご帰還。この日、2万1547歩。ついに10万歩突破。    
ピカソ!
 10月27日(日)。雨。
 ピカソ美術館。9時30分開館とガイドブックに書いてあったので一番乗りしたのだが、重い扉は10分過ぎても閉まったまま。ベルを鳴らすと中で、「チェンジ!」という言葉と数人の笑い声。結局、10時30分のオープンと分かって1時間、カフェで時間をつぶして出直し。
 しかし、待っただけの甲斐はあって、見応えは十分だった。父ちゃん、ピカソ大好き。初めて目にした彫刻もあり、感動。「なんでもありなんだ」と勇気づけられ、創作意欲がメラメラ。
 すっかり予定時間をオーバーしたのでホテルへ走って帰り、荷物を受け取って、ドゴール空港へ。きょうは帰る日。
 空港の時計が1時間違っているのに気づく。「あれ、スイスとフランスでは1時間、時差があるのかな」と思ったが、そんなわけはない。売店の時計をのぞいてみたら、自分の時計と同じ。やっぱり、空港の時計が間違ってる。「でもなあ」と、本を調べてみたら、なんと、書いてありました。
 「日本とフランスの時差は8時間だが、3月の最終日曜の午前1時から10月の最終日曜の午前2時まではサマータイムが採用され、時差は7時間となる」。アチャー。
 10月の最終日曜といえば、きょうじゃないか。今朝の2時に時差が変わったんだ。
 どうりで、ピカソ美術館の職員が笑ったわけだ。
 「来るぞ、来るぞ、バカが一人くらい絶対来るぞ」とみんなで待っているところへ、バカがベルを鳴らしたのだから。