平成15年5月29日 Vol 83
卆寿のお祝い
 5月25日(日)、東京へ。
 おふくろが90歳になったので、卆寿(そつじゅ)のお祝いをした。
 大正2年生まれ。ことしの5月で満90歳。こういうお祝いは数えでやるものだから、ほんとうは去年やらなきゃいけなかったのだけど、忘れてた。言い訳をすれば、それくらいうちのおふくろはまだ元気なのよ。
 「足が痛むのでこないだお医者さんに行ったら、90歳なんだから杖でもしたらどうですかなんて言うのよ。失礼しちゃうわよ、あのお医者。杖なんて年寄りみたいで嫌よねえ」などとのたまうのだ。
 90歳は年寄りではないのか。
 横浜に住んでいるが、とにかく出歩くのが好きで、天気が良ければひとりで市内や渋谷へショッピングに出掛ける。
 「一緒に田舎で暮らそうよ」と誘えば、「あたし、田舎は嫌いなのよ」ときっぱり。
 長男としては気にはなるのだけれど、ま、元気だからいいかと、好きにしてもらってる。
 つぎは、99歳の白寿まで、どうぞカラダに気をつけて。いやここまで来たら、100歳まではがんばってもらいたい。
 子ども3人、孫5人、曾孫4人が横浜ベイヒルトン・ホテルに全員集合して祝福。若向きの杖と、靴と、大好きな扇子をプレゼントした。 
プレジャーライフ
 26日(月)、日本体育大学で、特別授業。
 昨年に引き続いて2度目になるが、こんどは大学院生が相手。それも2時限。
 1時限目は、「プレジャーライフの実践」
 2時限目は、「私の取材方法」
 9時から、あいだに10分の休憩を挟んで12時10分まで、なんとかこなしはしたけれど、受講生のほうはどうだったのか。
 それにしても、子どもの頃よく忍び込んで遊んだ日体大で、まさか先生をやることになるなんて、人生分からない。百姓になって、漁師になって、これから父ちゃん、どこへ行くんだろう。 
用賀
 どこか遠くへ行ってしまう前に、古里をもう一度、この目に焼き付けておこうと思って、授業が終わってから世田谷区用賀の町をぶらり歩いてみた。日体大がある深沢の隣町、用賀には、幼児の頃から結婚するまで住んでいた。つまり青春時代を過ごした町。いま、その思い出の町を34年ぶりに歩く。
 まずは我が家のあった場所へ行ってみた。にぎやかな音楽を流す派手なゲームセンターになっていた。
 隣の八百屋もその隣の魚屋も、家の前にあった金物屋も材木屋も、みんな跡形もなく消えている。家の裏の電車道(玉電)は大きな道路になり、電車は地下に潜っている。いつも野球をした原っぱには高層ビルが建ち、缶蹴りをした横町には高速道路が走っている。
 下駄屋、肉屋、お茶屋、本屋、薬屋、コーモリ傘の修理屋はどこへ行ってしまったのか。
 かっちゃんが住んでた長屋もない。はるちゃんちもない。おとちゃんもいない。
 おれの古里はどこへ行ったのよ。
 もっと歩いてみよう。M坊の家があった。風呂屋がある。お墓もある。神社もある。いいぞ。
 運送屋もあった。そう、ここだ。
 そうだ、Y(小学校時代のトモダチ)の家に行ってみよう。隣の瀬田だけど、歩いて行ってみよう。まだ年賀状をくれるから、いるはずだ。
 「こんちは」
 「あれ、かずちゃん」
 
 「M坊は死んじゃった。Hちゃんも死んだ。町も変わっちゃった。商売もだめよ」    
新橋の夜
 27日(火)、悪友列伝のほんじょうくん、ウッシーズが待っている。
 予約済みの部屋には、先輩のすぎさんも。なぜか、いとーちゃんまで。
 いや、しばらく。まずはイッパイ。 「元気そうで」「はい、なんとか」
 で、飲むほどに、酔うほどに。
 たまたまきょうは、同席の君子さんの誕生日。「えっ、そうだったんですか」と、ほんじょうくんがケーキを調達してきてくれて、ハッピーバースデーの大合唱。そこへ、ふるちゃんといいだちゃんも駆けつけて、もうガチャガチャ。みんな昔の仕事仲間。話題は昔話。
 「おれはね、入社していちばん最初に声をかけられたのが金子さんでね、いきなり、こんな会社早いとこ辞めたほうがいいよだって。まいりましたよ」
 「金子さんは秘密主義」
 「給料だってちゃんと渡さない。ボーナスだってぜんぶポケットに入れちゃって、奥さんにうちの会社はボーナスも出ないなんて言って」
 「壁を作っちゃって誰も寄せ付けようとしなかった」
 10年ぶりの先輩と後輩。会社も後輩も捨てた百姓と、がんばるサラリーマン。旗色悪し。
 話題をいまに戻せば、おいらのホームページ批評。
 「もう、ひどいですよ。毎日、うまそうな料理並べちゃってさ」
 「賞金をもらっただの、ヨーロッパへ行っただの、自慢たらたら。どうだどうだって」
 「料理だってなんだってぜんぶ、君子さんまかせ。自分は飲むだけ」
 
 分かった、分かった。アタシが悪うござんした。反省します。謝ります。いや、参ったな。なんで、こういうことになっちゃったんだろう。 
銀ブラ 
 28日(水)、銀座へショッピング。
 と言ったって、高価なスーツやシューズを買おうってんじゃない。飛行機の時間を見てのただの暇つぶし。ヤマハでジャズの本とCDを2枚買って、ITO-YAへ。絵の具と彫刻刀を買って9階でコーヒー。そのあと山野でピアノ譜を買う。10年ぶりの散財。
「旬の田舎料理」休載
 農薬漬けや不透明な添加物や不当表示や偽装や、その他もろもろ、わけのわからない食品が幅を利かせているので、そんなものより、自然のままの何も足さない、何も引かない旬のものを食べようよという意味合いで始めた、「旬の田舎料理」でしたが、もとより都会では無理な話、「ふざけるな、自分だけいい思いしやがって」と悪評、酷評、非難ごうごう。なので、29日をもって休載を決めました。応援してくれたファンのみなさまには申し訳ないのですが、そういうわけです。長らくのご愛読、感謝いたします。ありがとうございました。