自給自足
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物語
自給自足で
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人生の楽園


   14 ハーブを育てる (香りのある暮らし)
 金子農園の一角に、ハーブガーデンをつくってある。
 これも妻の趣味で、ぼくは、いまだに名前さえよく知らない。いや、何度も聞かされているのだけれど、横文字だらけで憶えきれないのだ。それでも、少しずつ憶えてきてはいるから、まだ、ぼくはいいほうかもしれない。この辺の人たちは、ぼくよりずっとひどい。
 「畑にカヤなんか植えて、なんばすっとね」なんて言うのだから。
 「いや、あれはハーブの一種で、レモングラスっていうんですよ」なーんて、ぼくは、エラソーに答える。この頃はね。
 そうすると、この辺のおじさん、おばさんは決まってこう言うね。「ハーブっちゃ、なんね? ハブなら知っとるばってん」。もう、ワンパターン。こればっか。
 でも、ぼくも、人のことは言えない。
 初めの頃、草払いをしていて、レモングラスとは知らずに、カヤだと思って、きれいに刈り取ってしまったのだから。いや、妻の怒ること、怒ること。
   ハーブガーデンには、20種類以上のハーブが植わっているはずと、妻は言う。
 思い浮かぶだけ上げてみてとうながすと、つぎのような名前が出てきた。
 ローリエ(ベイ)、ローズマリー、コモンタイム、オレガノ、ボリジ、カモミール、ターメリック、ベルガモット、レモンバーム、レモンバーベナ、レモングラス、クローブ、スペアミント、パイナップルミント、コモンセージ、パイナップルセージ、アメジストセージ、ヤロー、チャイブ、ロケット、ウインターセボリー、シルバータイム。
 花と料理が何よりも好きな妻は、ハーブのある暮らしを心底楽しんでいるように見える。生け花にして部屋に飾ったり、リースをこしらえたり、もちろん料理にも使う。
 「おっ、きょうのコレ、うまいね。何入れたの」と聞くと、大概、なんかしらのハーブが入っている。
 ぼくも、いつの間にか慣らされて、ハーブティも飲むし、ハーブの風呂で香りを楽しむまでになってしまった。
 妻は、お菓子づくりも好きで、ボリジのクリスタライズド・ハーブ(砂糖菓子)をデコレーションしたケーキなんかをつくるが、遊びに来た若い女性なんかに出すと、大概「ウワーッ」と歓声を上げて喜ぶ。そして、「どうやってつくるんですか?」と必ず聞く。そのたびに説明を聞くから、ぼくも憶えちゃった。つくったことはないけどね。
 <クリスタライズド・ハーブの作り方>
 1、卵白を小さな筆で花びらにぬる。
 2、グラニュー糖をまぶす。
 3、日陰で乾燥させる。
 
 「ど田舎の新感覚」がウリの金子農園。もちろん、ハーブも直売所へ持って行く。
 西洋野菜や中国野菜と同様、最初のうちは、誰にも見向きもされなかったが、この頃は、楽しみに待っていてくれるお客さんも増えた。
 レモングラス、カモミール、ミント、レモンバームなどはお茶用、ローズマリーはお茶や肉料理用、ローリエは料理用に喜ばれる。小さな袋に入れて、1袋100円〜300円ぐらいで出している。
 ハーブと聞くと、なぜかフランス、イタリアというイメージが強いけれど、よく聞けば、タンポポとか、セリ、シソ、ショウガ、ミョウガなんかもハーブなんだってね。ニンニクやトウガラシ、パセリもそう。なんだか名前にだまされてるみたいだけど、まあ、花がきれいなだけでなく、ものによっては鎮静効果やら薬効、あるいは殺菌作用、疲労回復、強壮効果まであるというんだから、いいんでないかい。