前200年頃『ヨブ記』第41章(日本聖書協会訳『聖書』より)
あなたはつり針でわにをつり出すことができるのか。糸でその舌を押さえることができるのか。
この部分の欽定英訳は「Canst thou draw out leviathan with an hook? or his tongue with a cord which thou lettest down?」で、この日本語訳では「わに」とされている部分が、「leviathan」にあたる。このあと、「leviathan」の詳細な描写が続き、それによると、口から火花を出したり、鼻から煙を出したり、心臓は石のように硬く、その身を動かす時は勇者も恐れをなし、剣も槍も矢も通用しない、誇り高ぶる者の王だという。かなり「ドラゴン」的な存在だ。
前200年頃『詩篇』第74章(日本聖書協会訳『聖書』より)
神はいにしえからわたしの王であって、救を世の中に行われた。あなたはみ力をもって海をわかち、水の上の龍の頭を砕かれた。あなたはレビヤタンの頭をくだき、これを野の獣に与えてえじきとされた。
そんなレビヤタンも、YHVHによってスレイされる。多くの研究家はこれを、バアルが龍ヤムを倒したドラゴンスレイヤー伝説を取り入れたものだろうと考えている。
前200年頃『イザヤ書』第27章(日本聖書協会訳『聖書』より)
その日、主は堅く大いなる強いつるぎで逃げるへびレビヤタン、曲がりくねるへびレビヤタンを罰し、また海におる龍を殺される。
同じく、YHVHがレビヤタンをスレイした記事。ここでは、YHVHが剣を持っているところが興味深い。
1世紀頃『シリア語バルク黙示録』第29章(日本聖書学研究会編『聖書外典偽典5』より)
またベヘモートがその塒から姿を現わし、レビヤタンは海中からのぼってくるであろう。この二匹の巨獣は創造の五日目にわたしが創って、生き残る者たちの食料としてそのときまでとっておくのである。
これは主がバルクに語った言葉のひとつ。世の終末に生き残る人々の餌になるらしい。
1世紀頃『第四エズラ書』(関根正雄訳『旧約聖書外典』下巻/講談社文芸文庫)
そののち、あなたは二つの生きものを生かしておかれました。その一つはベヘモートと名づけ、他の一つをレビアタンと名づけられたのです。あなたはこの二つを別々のところにはなしておかれました。なぜなら水があつまったあの第七の区域は、これら二つの生きものをいっしょに入れておくことができなかったからです。あなたはベヘモートには第三日目に水の干あがった土地、つまり多くの山のある陸地を住みかとして与え、一方レビヤタンには第七の区域、水のある場所をお与えになりました。あなたはあなたのよしとされる人が、よしとされる時に食べるためにこれらの生き物を生かしておられたのです。
『シリア語バルク黙示録』では五日目だったのが、ここでは三日目になっている。同じように食料になるんだな。
8世紀頃『エチオピア語エノク書』第60章(日本聖書学研究会編『聖書外典偽典4』より)
その日、二匹の怪獣は分かれ、レヴィヤタンという名の雌の怪獣は海のどん底、水の源の上に住み、名をベヘモットという雄は胸で眼に見えない荒野をつかんでいる。
これはミカエルがエノクに語る言葉の中に出てくる話。レヴィヤタンとベヘモットが、アダムとイブのように対になって誕生しているのが興味深い。「この二匹の怪獣は神の大きさに従ってそなえられ、神の刑罰がむだにならないよう飼育されている」のだという。なお、この第60章は講談社文芸文庫の『旧約聖書外典』ではカットされている。
1486年シュプレンゲル&クラメル『Malleus Maleficarum』Question IV(JD訳)
同様に、高慢の悪魔はリヴァイアサンと呼ばれ、それは「付加」を意味している。なぜなら、ルシファーが私達の最初の両親を誘惑した時に、高慢によって、彼らに神性の付加を約束したからだ。彼について、主は言った、私はリヴァイアサン(その古の、とぐろを巻く蛇)と同時に現れるだろう。
これは日本では『魔女への鉄槌』と呼ばれる、魔女狩りテキスト。その中に悪魔に関する簡単な解説がある。ここではリヴァイアサン=ルシファー=エデンの蛇という扱いがされ、「高慢」にあてられている。
1667年ミルトン『失楽園』第1巻(平井正穂訳/岩波文庫)
或いは、大海原を遊泳するすべての生物のうちで神が最も巨大なものとして造り給うた海の怪物リヴァイアサン、などに優るとも劣らなかった。
ここではサタンの身体を表現する比喩として登場しているが、このあとノルウェーの船乗りが、リヴァイアサンを島と間違えて停泊したという寓話も紹介している。
1812年コラン・ド・プランシー『地獄の事典』レヴィヤタンの項(床鍋剛彦訳/講談社)
神ははじめに雄と雌の二匹のレヴィヤタンを創造したが、かれらが地球をめちゃくちゃにしたり、その身内たちで世界を埋めつくしてしまうのではないかと心配した神は、雌を殺し、来るべきメシアの食事とするために塩漬けにした。
と、ラビの伝説にはあるそうな。レヴィヤタンのアダムとイブがいるあたり、『エチオピア語エノク書』にも通じる。「その身内たちで世界を埋めつくしてしまう」というのは、もしかすると古代の恐竜の繁栄を語っているのかもしれない。
1860年エリファス・レヴィ『魔術の歴史』第一之書第三章インドにおける魔術(鈴木啓司訳/人文書院)
ヴィシュヌは海の怪物レヴィヤタンとなり、また、巨大な猪となって鼻先で原初の大地を耕すのである。
なぜだか、インドの解説のとことで、ヴィシュヌの化身としてレヴィヤタンをあげている。クールマ(亀)やマツヤ(魚)のことだろうか?